朝鮮半島で女性を強制連行して慰安婦にしたという日本側の唯一の証言者、吉田清治氏に関する記事を朝日新聞が虚偽と判断して取り消したのは10年前、平成26年8月5、6日の特集記事「慰安婦問題を考える」でのことだった。朝日はこの時点で確認できただけで、吉田氏について16回、記事にしていた。
▼吉田氏は軍や警察の協力を得て強制連行を行ったと述べていたが、自称・元山口県労務報国会下関支部動員部長になぜそんな権限があるのか。当時、朝鮮半島の巡査のほとんどは朝鮮人だったが、吉田氏の指示に唯々諾々と従って同胞を狩り立てたのか。普通に考えれば、眉唾ものである。
▼しかも吉田氏自身、平成8年の週刊新潮(5月2・9日合併号)のインタビューであけすけに語っている。「本に真実を書いても何の利益もない」。慰安婦問題に詳しい現代史家の秦郁彦氏は、吉田氏の著書を出した出版社の担当者に「あれは小説ですよ」と言われた。
▼小紙は平成4年4月30日の朝刊で、吉田氏が慰安婦狩りをした現場、韓国・済州島での秦氏の現地調査を踏まえ、こんな見出しの反証記事を掲載した。「朝鮮人従軍慰安婦強制連行証言に疑問 加害者の〝告白〟被害者が否定」「済州島民『でたらめだ』 地元新聞『なぜ作り話』」
▼にもかかわらず、朝日は1カ月もたたない5月24日の朝刊で「今こそ 自ら謝りたい」との見出しで、韓国に謝罪の旅に出る吉田氏を取り上げた。数々の疑問や反論を投げかけられても、吉田氏の記事を取り消すまでそれから22年以上かかった。
▼1人の男の発したデマが報道機関やSNSを通じてまことしやかに国際的に拡散され、国益を大きく損ねることもある。肝に銘じたい。