1998年の小渕恵三首相と金大中大統領による日韓共同宣言の発表から25年がたった。両国をとりまく環境が激変する一方で相互理解と未来志向の関係発展をうたった宣言の意義は色あせない。友好・協力に弾みをつけて改善の流れを定着させてほしい。
宣言は、日本が過去の植民地支配について「痛切な反省と心からのおわび」を表明。韓国は戦後の日本の平和への取り組みと国際社会での役割を高く評価した。政治、経済、安全保障など幅広い分野での関係を築くと合意し新たな時代を切り開く契機となった。
このとき金氏が決断した日本の大衆文化開放は今日のめざましい文化交流への扉を開いた。2002年サッカーのワールドカップの共催も通じて両国関係は最良の時期を迎えたが、歴史問題や竹島をめぐる領土問題などで悪化を繰り返したのは記憶に新しい。
「国交正常化以降で最悪」と評された状態を立て直したのはひとえに尹錫悦大統領の政治決断だ。元徴用工問題の解決策に続き、東京電力福島第1原子力発電所にたまった処理水の海洋放出でも日本に理解を示す。ともに相手の立場に心を配る政治を望みたい。
気がかりなのは、尹氏の支持率が30%台にとどまり関係改善を進める基盤が弱いことだ。4年後に新大統領が誕生する。来春には総選挙を控えており、尹政権の国政運営は波乱含みだ。トップが代わっても後戻りしない日韓関係への歩みが大事になってくる。
周辺では核への依存を深める北朝鮮だけでなく、ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、台湾有事の懸念も消えない。不安を抱えるサプライチェーン(供給網)の強化を含め、日韓が手を結ぶ重要性が高まっている。重層的な体制づくりに拍車をかけるべきだ。
日韓、日米韓協力の枠組みを制度化するのは適切だ。その精神となる理念と協力すべき分野を明示した共通ビジョンが必要になる。有識者でつくる日韓フォーラムが国際秩序の変化を踏まえ、バージョンアップした共同宣言の発表を提言したのは一考に値する。
日韓は互いに相手国の文化に親しむ若い世代らが頻繁に行き交うなど民間の勢いを政治が止めてはなるまい。日韓関係の歴史を振り返ると、安定した時期はそう多くない。だからこそ持続可能な関係を築く道筋をいまからつけておくことが日本の国益にかなう。