殺傷能力のある兵器の輸出は、戦前の反省を踏まえ、平和国家として歩んできた日本への信用を揺るがしかねない。国民的議論も抜きに、期限を切って拙速に結論を出すことなど許されない。
武器輸出緩和に向けた自民、公明両党の協議が再開された。焦点は、日本が英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を念頭に、国際共同開発した武器を日本が直接、第三国に輸出することを認めるかどうかだ。
岸田政権は昨年末、自公の提言を受ける形で、「防衛装備移転三原則」と運用指針を改定し、限定的ながら、殺傷兵器の輸出に道を開いた。
地対空ミサイル「パトリオット」など、日本企業が許可を得て生産した武器をライセンス元の国に輸出可能としたほか、「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の5類型について、一定の殺傷兵器を搭載しての輸出を認めた。
さらに、戦闘機という殺傷能力の高い兵器にまで対象を拡大するなら、国際紛争を助長する武器の輸出国にはならないという原則の一層の空洞化は避けられない。
次期戦闘機の共同開発は一昨年末に発表され、昨年末には、事業を管理する国際機関を設立する条約に3カ国が署名した。日本にとっては航空自衛隊のF2戦闘機の後継になり、2035年の配備をめざしている。
共同開発を決めた時点では、日本は完成品を第三国に輸出しない前提だったとされるが、自民党側は、日本からの輸出がなければ販路が限られ、全体の生産計画に支障が出るほか、開発体制などをめぐる交渉で日本が不利になるなどと主張している。
政府は3月から作業分担などに関する話し合いが本格化するため、月内に結論を出すよう求めている。公明党の山口那津男代表は「政府の方針が国民には届いていない」と述べた。わずか1週間で理解が得られるはずはないのだから、はやる自民党を抑える役割を果たすべきだ。
今回の戦闘機に限って認める案も浮上しているという。しかし、一度道を開けば、他の共同開発品、さらには日本の単独開発品と、なし崩しに広がっていく恐れは否定できない。ここで立ち止まり、平和主義の原点に戻るべきだ。
一昨年末の安保3文書の改定を受けた武器輸出の緩和は、与党の限られた議員による非公開の協議で進んでいる。国民に長年、受け入れられてきた原則を、国会など開かれた場での議論も経ずに変えるのは、民主主義のあり方としても見過ごせない。