においの話をしたいと思う。沖縄の地を訪れ、出合った、ふたつのにおいだ。どちらも、いい香りとはとても言えないものだが、忘れられない。言葉で表す、視覚に示す。それでも伝えきれない何かを、ときに臭気は雄弁に教えてくれる
▼嘉手納町にある「道の駅かでな」には、巨大な米軍基地と隣り合う暮らしを体験できるブースが設けられている。なかに入ると、子どもと母親の何げない会話が聞こえてきた。ただ、すぐに軍用機の爆音が響き、声はかき消されてしまう
▼驚いたのは、これとともに、ツンとした燃料臭が噴き出されてくることだ。騒音は想像していたが、戦闘機が飛び立つ下ではこんな臭気があるのかと初めて知った
には、旧日本軍がつくった陸軍病院の地下壕(ごう)跡が残る。ひめゆり学徒隊も動員されたところだ。戦後、多くの遺骨がみつかったという。「ガイコツ山って呼ばれてました」。近くに住む女性は言った
▼復元した壕の見学だけでなく、希望すれば、戦下の壕内を再現してつくったにおいをかぐことができる。
消毒液か、
火薬か、
人の汗か。
異様な臭さが鼻をつく。沖縄戦の悲惨な記憶を風化させてはならぬ。何とか伝えたいとの強い思いが、心に刺さった
▼戦争の歴史と米軍基地。ふたつの重い枷(かせ)を負ってきた沖縄でいままた、自衛隊の増強が急速に進む。きのうの戦没者の追悼式で、「大きな不安」があると知事は訴えた。首相はしかと、受けとめてほしい。その耳に、目に、いや鼻にも。