天皇陛下は、1日で即位から5年を迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大により、3年近く地方訪問の自粛を余儀なくされたが、昨年5月には、コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に下がり、従来の活動を取り戻しつつある。今春には能登半島地震の被災地を2度にわたって見舞うなど「国民の中に入る皇室」を目指す天皇陛下の活動はこれからますます広がる。
天皇陛下が即位してから2024年5月1日で5年となります。
19年10月に即位を宣言する「即位礼正殿の儀」が開かれ、天皇、皇后両陛下は各国の要人と対面しました。同年11月のパレードでは沿道に約11万9千人が集まりました。
天皇陛下は23日、64歳の誕生日を迎えました。皇居では一般参賀が行われ、早朝から多くの人が訪れています。
陛下は、皇后さまや秋篠宮ご夫妻をはじめ皇族方と宮殿・長和殿のベランダに立ち、参賀者に手を振って応えていました。
この日の様子と、過去の一般参賀を写真でお伝えします。
皇后雅子さまが9日、60歳の誕生日を迎え、皇居・宮殿では祝賀行事が開かれました。宮内庁によると、今年も昨年同様、飲食を伴う行事は行わなかったものの、昨年より出席者数を増やして開催されました。午後には上皇ご夫妻にあいさつするため、天皇陛下とともに東京・元赤坂の仙洞御所を訪問。仙洞御所に入る前、皇后さまは集まっていた人々ににこやかに手を振って応えていました。
この1年では、6月に天皇陛下とインドネシアを訪問。国内では、両陛下の定例地方訪問「四大行幸啓」で岩手、北海道、鹿児島、石川の各道県を訪れました。
11月、両陛下は来日したキルギスのジャパロフ大統領夫妻、ベトナムのトゥオン国家主席夫妻と皇居・宮殿で会見し、昼食会を開きました。外国賓客を招いた宮殿での昼食会は、同月17日のキルギスの大統領夫妻の時点で、コロナ禍前の2019年12月以来でした。昼食会後の見送りで両陛下は、両夫妻が乗った車が見えなくなるまで、手を振り続けていました。
この1年の皇后さまを写真で振り返ります。
同年12月には台風で大きな被害を受けた宮城、福島両県をお見舞いで訪問するなど、国民に寄り添う上皇ご夫妻の姿勢を継承してきました。
しかし、20年に新型コロナウイルスの感染が拡大。公務や式典などが相次いで中止・延期となり、その後はオンラインでの出席が続きました。
22年9月、エリザベス女王の葬儀に参列するため、両陛下は英国を訪問。即位後初の外国訪問でした。
23年1月、3年ぶりの新年一般参賀が行われ、長女愛子さまが初めて出席しました。
24年1月1日、能登半島地震が発生。両陛下は3月22日と4月12日の2回、現地をお見舞いで訪問しています。
この5年間を写真で振り返ります。
天皇陛下は4月12日、元日に起きた能登半島地震の爪痕が生々しい石川県穴水町の商店街を訪れた。1階が完全につぶれた商店、散乱した民家の木材。傍らの皇后雅子さまも真剣なまなざしで街を見渡していた。
「声をかけてもいいですか」
両陛下は、案内していた吉村光輝町長らにそう尋ね、1軒の美容室に歩み寄った。周辺では数少ない営業を再開していた店舗で、中から窓越しに手を振る人々がいることに気がついたからだった。
吉村町長は驚いた。両陛下の地方訪問は、警備のこともあり、分単位で行程が組まれている。この場での被災住民との交流は「想定外だった」。
店内にいた女性によると、両陛下は店先で「大変でしたね」と気遣ってくれたという。女性は「両陛下がこんなに遠いところまで足を運び、直接声をかけてくださった。地震後、気分が沈みがちだったけれど、励まされた」と声を弾ませた。
両陛下が能登半島地震の被災地に足を運んだのは3月22日に続いて2度目。短期間で2度の「お見舞い」が実現した背景には、美しい自然と輪島塗などの伝統文化がありつつも過疎や高齢化といった厳しい課題にさらされている能登半島への強い思いがあったという。
ある宮内庁幹部は「発災の直後から天皇陛下の念頭には、訪問は一度で終わらないという思いがあった」と明かす。
避難所で両陛下は椅子に座っていた被災者と目線を合わせるように身をかがめ、「不便はないですか」「お体を大切に」などと声を掛け、予定外の場所でも被災者や、被災者支援にあたる人らに次々と言葉をかけた。
天皇陛下は今年2月の会見で「国民の皆さんの中に入り、少しでも寄り添うことを目指して、皇室が国民のために何をすべきかなど的確に感じ取れるよう、雅子とも相談しつつ各地を訪問してまいりたい」と語っていた。
こうした被災地訪問は「平成流」と呼ばれた上皇ご夫妻の活動を継承したものだが、実は随所に天皇陛下のこれまでのライフワークが生かされたともいえる点がある。
「陛下の徹底した『現場主義』は皇太子時代から長年取り組んできた水問題の研究で培われたのでは」と、陛下の研究アドバイザー、広木謙三政策研究大学院大学教授は語る。世界の水問題に詳しい広木教授は能登半島地震発生から約1カ月後の2月5日、皇居・御所で天皇陛下への進講に臨んだ。
冒頭から、能登半島地震の話題になった。陛下は水道管が広範囲に被害を受けたことを把握しており、「トイレはどうするのでしょうか」「水道管を地震から守る方策はあるのでしょうか」などと質問を重ねた。広木氏は「災害が起きてたちまち困るのはトイレの問題。陛下は水問題への取り組みを通じて、具体的に物事を考えることができ、災害の深刻さを深く理解されていた」と振り返った。実際、上下水道がまだ完全に復旧していない地域も残ったままだ。
あるべき皇室像について「国民の中に入っていく」と語っていた天皇陛下。即位から1年足らずでコロナ禍に見舞われ、国民とじかにふれあうことがままならなくなった。コロナ禍の水防災に関する国際会議にオンラインで初めて出席したことを機に、2020年秋からオンラインによる活動を本格的に公務に採り入れるなど新たな取り組みにも踏み出した。
また、昨年6月のインドネシアへの親善訪問では、5世紀の治水事業が記されたトゥグ碑文を実際に見ており、陛下は「水を巡る問題を知ることは、海外の社会や文化を理解することにもつながる」と振り返った。
両陛下を支える宮内庁の西村泰彦長官はこの5年間を振り返り、一番大きかった出来事としてコロナ禍の経験を挙げ、「両陛下のお考えに基づき、いろいろな工夫がなされてきている」と述べた。(力丸祥子、中田絢子)
即位後の両陛下の主な訪問
【海外】
23年 国際親善のためインドネシアを公式訪問
【国内(地方)】
19年 10件(0)▽20年 1(3)▽21年 0(11)▽22年 3(5)▽23年 8(1)▽24年 2(0)
※括弧内はオンラインの件数
(宮内庁まとめ)