徒然なる儘に ・・・ ⑤

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「地方創生」重点施策に 日米地位協定は触れず 石破首相が所信表明 2024年10月5日 5時00分

 石破茂首相は4日、衆参両院の本会議で、就任後初めての所信表明演説を行った。地方創生を重点施策に位置づける方針を掲げ、人口減少に歯止めをかけ、地域経済を後押しする姿勢を強調する一方で、安全保障分野では日米地位協定の改定など持論には踏み込まなかった。所信表明に対する代表質問は衆院で7日、参院で8日にあり、野党は攻勢を強める考えだ。

 

 

 

 

▼2面=石破カラーは、

 石破茂首相の4日の所信表明演説は、自民党派閥の裏金問題への「深い反省」から始まった。ただ、政治改革の具体策は示されず、処分を受けた議員らも次期衆院選では原則として公認する方針だ。安全保障や経済、社会保障でも「石破カラー」を封印し、岸田政権の路線を踏襲する姿勢が鮮明となった。▼1面参照

 「まずは、政治資金問題などをめぐり国民の政治不信を招いた事態について、深い反省とともに触れねばなりません」

 4日午後、衆院本会議場。就任後初の所信表明演説に臨んだ石破氏は短く一礼すると、拍手がやむのも待たずに語り始めた。そして、就任直後の首相演説としては異例の「深い反省」を、手元の原稿に目を落としたまま読み上げた。

 しかし、約30分の演説で裏金問題や政治改革に触れたのは、冒頭の数分のみ。裏金問題に関わった議員を念頭に、「一人一人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と政治資金の透明性を高める決意を示したものの、具体的な対応策には踏み込まなかった。

 石破氏は総裁選への立候補を表明した8月下旬、処分された議員を次の選挙で公認しない可能性に触れたが、その後は慎重な言い回しに終始している。森山裕幹事長ら新執行部も非公認に否定的で、石破氏は「裏金議員」らを原則として公認する方針を固めた。比例代表との重複立候補も認める方向だ。党内からも「全員公認でいいのか。国民の目は厳しい」と危ぶむ声が上がった。

 世論の風向きを変えようと、自民党は政治改革のアピールに躍起だ。4日、「政治刷新本部」と「党改革実行本部」を統合し、総裁直轄の「政治改革本部」を新たに設けることを決定。本部長には、リクルート事件後の政治改革に石破氏とともに取り組んだ渡海紀三朗・前政調会長が就いた。

 だが、石破氏は1日の就任会見で裏金問題の再調査について、「新しい事実が判明すれば必要だが、現在、そういう状況にあるとは承知していない」と、真相究明に後ろ向きな姿勢を示した。立憲民主党野田佳彦代表は、石破氏が演説に盛り込んだ「政治家の仕事は勇気と真心をもって真実を語ること」との言葉を引き合いに、「裏金問題の真実をちゃんと究明して語ってほしい」と注文をつけた。(千葉卓朗)

 

 ■安保・外交 持論封印し前政権踏襲

 石破茂首相は4日の所信表明で、自らが得意とする安全保障分野の持論を封印した。自民党総裁選で繰り返し訴えていた「アジア版NATO北大西洋条約機構)」創設と日米地位協定の改定については一言も触れなかった。かろうじて独自色を見せたのは、自衛官の処遇改善のための関係閣僚会議の設置くらい。代わりに全体を通じて強調したのが、「日米同盟を基軸に、友好国・同志国を増やす」といった岸田政権の安全保障政策の継承だった。

 石破氏が安保分野で持論を封印したのは、米側のみならず、政権の足元の外務・防衛当局からの反発があったからだ。

 もともと総裁選中、石破陣営内では、石破氏の安保政策をめぐる持論は従来の政府方針とあまりにもかけ離れているため、首相になれば問題を生じかねないと懸念する向きはあった。とくに日米地位協定の改定は米国の「特権」を奪うことにもなり、米側からの強い反発が予想される。その懸念が早くも顕在化したのが、米有力シンクタンク・ハドソン研究所への石破氏の寄稿だ。「アジア版NATO」創設を訴え、日米地位協定とともに日米安保条約の改定まで訴えるなど、「型破りな考え方」(同研究所のワインスタイン日本部長)とワシントンの安全保障コミュニティーに受け止められた。

 日本の外務・防衛当局内でも、石破氏の主張に「ファンタジーだ」(防衛省関係者)とあきれる声や「政権が倒れてしまう」(同省幹部)という危機感が一斉に広がった。政府内の一部では、石破氏の寄稿についてSNSで言及しないようにと指示が出るほどだった。

 ある外務省幹部は「首相の問題意識はわかる」としつつ、「我々は現状の国際情勢や日本外交のこれまでの方向性をしっかり伝える」と強調。石破氏は外務・防衛当局の意見に耳を傾けた結果、「数日間で急ピッチで作った」(首相周辺)という所信表明演説で持論を封印。こうした石破氏の対応に、米政府関係者は「石破氏の総裁選時の訴えと、今の政権になってからの主張には違いがある」と分析し、当面は推移を見守る構えだ。(松山紫乃

 

 ■地方創生には力、交付金倍増

 「地方こそ、成長の主役です」

 石破氏が自らの経験や思いを盛り込み、一段と声を張って訴えたのが地方創生だった。議場では、与党側から拍手が湧いた。

 石破氏は10年前に初代の地方創生相に就いたことに触れ、同じ山陰地方選出の故竹下登元首相の「小さな村も大きな町もこぞって、地域づくりを自ら考え、自ら実践していく」との言葉を引用。「いま一度、地方に雇用と所得、都市に安心と安全を生み出す」と力を込めた。

 具体策として、当初予算で毎年1千億円を計上している交付金を倍増させる考えを示した。

 一方、経済政策ではデフレ脱却を最優先課題と位置付け、物価上昇を上回る賃上げを実現すると強調した。4日午前の閣議でも「成長と分配の好循環が力強く回っていく経済を実現しなければならない」として、経済対策をとりまとめるよう各閣僚に指示した。

 ただ、経済政策は岸田政権の継承が大半で、具体的な施策への言及は少なかった。昨年10月の所信表明演説で「経済、経済、経済」と連呼した岸田文雄前首相に比べると、重視する政策分野だというメッセージは弱まった。最低賃金の全国平均1500円の目標時期を2030年代半ばから20年代に前倒しすることも強調したが、自民党総裁選で言及した金融所得課税の強化や法人増税などにはまったく触れなかった。

 最速日程での解散を表明し総選挙に突入することもあってか、負担増にからむ言及はほとんどなく、社会保障の分野でも踏み込まなかった。

 「医療・年金・子育て・介護など、社会保障全般を見直し、国民に安心していただける制度を確立する」としたものの、負担については「先送りしない。それが今を生きる我々の責任です」と述べたのみだった。

 少子高齢化が進む中、社会保障制度を見直すためには負担増の議論は避けて通れない。例えば、将来的に目減りが見込まれる基礎年金(国民年金)は、一定の給付水準を維持するには兆円単位の国の負担が発生し、財源確保の議論が待ったなしの状況だ。少子化対策の財源も、一定の所得がある高齢者の医療費の窓口負担引き上げなどを政府は挙げるが、具体的な議論は進んでいない。

 総裁選で石破氏は、支払い能力に応じた負担を世代を問わずに求める「応能負担」の必要性を訴えたが、所信表明演説では触れなかった。

 自民のベテラン議員は「石破首相は政権基盤が盤石じゃない。負担増の話なんかしたら、すぐにつぶれてしまう」と背景を語った。(宮脇稜平、谷瞳児、高絢実)

 

 ■<視点>「内輪の論理優先」に変節か

 石破茂首相は冒頭から自民党派閥の裏金事件で政治不信を招いたことへの反省を述べた。事態の深刻さに思いを寄せた発言だが、空虚さは拭えない。その理由は、首相になった途端、石破氏には変節したと受け取られかねない言動が目立つからだ。

 石破氏は総裁選立候補に合わせ「裏金事件に厳しく臨む」と表明。だが実際には党内融和ばかりを気にして野党との国会論戦も事実上放棄。裏金事件を早く世間から忘却させようとするかのごとく早期解散へと突き進む。

 もちろん石破氏にも言い分はあるだろう。無派閥出身で「党内野党」として歯に衣(きぬ)を着せぬ言動を繰り返してきた結果、党内に敵は多い。総裁選の決選投票で高市早苗前経済安全保障相が半数近くの議員票を集めたように、石破氏の政治的基盤は極めてもろい。党内統治を確実なものにするために政策面も含め「石破カラー」を当面封印し、現実路線へとかじを切らざるを得ないという思いもあるだろう。

 しかし、それが国民の石破氏に期待した首相像なのか。世論調査で「次期首相」の上位の常連だったのは、裏金事件や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に代表されるような旧態依然たる自民政治と決別するリーダーになると期待されていたからだ。

 こうした国民の期待に、石破氏はもう一度思いを巡らす必要がある。石破氏でさえも権力を握れば「内輪の論理」を優先する政治家へと変節するのだと国民が受け止めれば、衆院選で自民に厳しい審判が下るのみならず、政治不信もまた高まりを見せるだろう。首相官邸取材キャップ・石井潤一郎)

 

 

 

4面=野党「熱意ない」、

 

 石破茂首相の4日の所信表明演説に対し、野党からは「石破カラーが消えた」「中身が薄い」との批判が相次いだ。さらに、自民党派閥の裏金問題で処分された議員らを原則公認する首相の方針について「反省のかけらもない」と厳しい批判が出ている。▼1面参照

 「『納得と共感』を得られるところが1カ所もなかった。石破カラーが脱色された演説だった」。国民民主党玉木雄一郎代表は、石破氏が演説で「納得と共感の政治」と強調したことを踏まえ、こう指摘した。

 首相はこれまで、日米地位協定の見直しやアジア版NATO北大西洋条約機構)の創設を主張。選択的夫婦別姓制度についても「やらない理由が分からない」としてきた。だが、この日の演説で、いずれにも言及しなかった。

 立憲民主党野田佳彦代表は「スカスカな所信表明だ」と突き放し、日本維新の会馬場伸幸代表も「薄っぺらくパッション(熱意)もない。この中身で解散して何を問うのかよくわからない」と冷ややかに語った。

 裏金問題への対応について、石破氏は演説で、「ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と語った。一方で、衆院選では「裏金議員」を原則公認する方針だ。

 これについて、野党側は「徹底的に戦う」(野田氏)と対決姿勢を強めている。野田氏は自民・公明両党の選挙協力に触れ、「公明は(処分議員らに)推薦を出すのか。自公両党が厳しい批判を浴びる」と指摘。共産党の田村智子委員長も、「選挙を裏金事件の幕引きに利用している」と批判し、「裏金議員」が勝っても幕引きにはならないと牽制(けんせい)した。

 自民内には石破氏が衆院解散を急いだために、「裏金議員」を非公認としたうえで新たな候補を擁立する時間的余裕がないとの見方がある。国民民主の玉木氏は「その時間的な余裕のなさを作り出したのは自分(石破氏)。笑止千万だ」と皮肉った。

 総裁選で語ったことの多くに背を向ける石破氏。「地方を守る」「国民を守る」と繰り返した所信表明演説を踏まえて、野田氏は言った。「守る、守るといっているが、まずは約束を守れと言いたい」

 

 

 

 

 

 

 

5面=演説全文、

 

 ■<1>はじめに

 この度、第102代内閣総理大臣に就任いたしました。

 「すべての人に安心と安全を」

 私は、日本国内閣総理大臣として、全身全霊を捧げ、日本と日本の未来を守り抜いてまいります。

 この決意を申し上げるに当たり、まずは、政治資金問題などをめぐり、国民の政治不信を招いた事態について、深い反省とともに触れねばなりません。

 政治資金問題に際し、岸田総理は、自由民主党内の派閥解消や政治資金規正法改正などに取り組まれた後に、所属議員が起こした事態について、組織の長として責任を取るために退任されました。これらは、全て、政治改革を前に進めるとの思いを持って決断されたものでした。

 また、岸田内閣の3年間は、経済、エネルギー政策、こども政策、安全保障政策、そして外交政策など、幅広い分野において、具体的な成果が形になった3年でありました。岸田総理のご尽力に、心より敬意を表します。

 その思いや実績を基に、私は、政治資金問題などにより失った国民の皆様からの信頼を取り戻し、そして、すべての人に安心と安全をもたらす社会を実現してまいります。

 千年単位で見ても類を見ない人口減少、生成AI等の登場による急激なデジタルの進化、約30年ぶりの物価上昇。我が国は大きな時代の変化に直面しています。この変化に対し、政治は十分に責任を果たしてきたでしょうか。

 政治資金問題で失われた政治への信頼を取り戻すとともに、これまで以上に、我が国が置かれている状況を国民の皆様に説明し、納得と共感を頂きながら安全安心で豊かな日本を再構築する。それが政治の責任です。

 そのために、私は、「ルールを守る」、「日本を守る」、「国民を守る」、「地方を守る」、「若者・女性の機会を守る」、これらの5本の柱で、日本の未来を創り、そして、未来を守ります。

 

 ■<2>ルールを守る

 (国民からの信頼)

 国民の皆様からの信頼を取り戻す。そのために、「政治家のための政治ではない、国民のための政治」を実現してまいります。

 政治資金収支報告書への不記載の問題については、まずは、問題を指摘された議員一人一人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げます。

 それぞれの政治家が国民一人一人と誠実に向き合い、改正された政治資金規正法を徹底的に遵守(じゅんしゅ)し、限りない透明性を持って国民に向けて公開することを確立せねばなりません。国民の皆様方にもう一度、政治を信頼していただくため、私自身も説明責任を果たし、更に透明性を高める努力を最大限していくことを固くお約束申し上げます。

 

 ■<3>日本を守る

 (外交・安全保障)

 激変する安全保障環境から日本を守り抜きます。国連安全保障理事会常任理事国であるロシアによるウクライナ侵略はいまだに続いており、戦火は絶えません。今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない。そのような不安を多くの方々が抱いております。なぜウクライナにおいて抑止力が効かなかったのか、私は強い思いを持っております。中東情勢なども相まって、国際社会は分断と対立が進んでいます。

 そうした現状を踏まえ、私は、現実的な国益を踏まえた外交により、日米同盟を基軸に、友好国・同志国を増やし、外交力と防衛力の両輪をバランスよく強化し、我が国の平和、地域の安定を実現します。その際、自由で開かれたインド太平洋というビジョンの下、法の支配に基づく国際秩序を堅持し、地域の安全と安定を一層確保するための取り組みを主導してまいります。

 日米同盟は、日本外交・安全保障の基軸であり、インド太平洋地域と国際社会の平和と繁栄の基盤です。まずはこの同盟の抑止力・対処力を一層強化します。加えて、同志国との連携強化に取り組んでまいります。先日は、早速バイデン米国大統領に加え、韓国、豪州、G7各国の首脳と電話会談を行いました。

 現下の戦略環境の下、日韓が緊密に連携していくことは、双方の利益にとって極めて重要です。日韓間には難しい問題もありますが、来年に国交正常化60周年を迎えることも見据え、岸田総理が尹(ユン)大統領との間で築かれた信頼関係を礎に、日韓両国の協力を更に堅固で幅広いものとしていきます。また、日米韓で一層緊密に連携していきます。

 中国に対しては、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、あらゆるレベルでの意思疎通を重ねてまいります。一方、中国は、東シナ海南シナ海における力による一方的な現状変更の試みを、日々、強化しております。先月には、幼い日本人の子供が暴漢に襲われ、尊い命を失うという痛ましい事件が起きました。これは断じて看過しがたいことです。我が国として主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含め対話を行い、共通の諸課題については協力する、「建設的かつ安定的な関係」を日中双方の努力で構築していきます。日中韓の枠組みも前進させます。

 拉致被害者やそのご家族が高齢となる中で、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人道問題、国家主権の侵害であり、政権の最重要課題です。日朝平壌宣言から20年余、残された拉致被害者たちのご帰国が実現していないことは痛恨の極みです。

 日朝平壌宣言の原点に立ち返り、すべての拉致被害者の一日も早いご帰国を実現するとともに、北朝鮮との諸問題を解決するため、私自身の強い決意の下で、総力を挙げて取り組んでまいります。

 対ロ制裁、対ウクライナ支援は今後とも強力に推し進めます。日ロ関係は厳しい状況にありますが、我が国としては、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。

 ASEANとの連携強化に引き続き取り組みます。グローバルサウスとの関係強化や、軍縮不拡散、気候変動など地球規模課題への取り組みを進めてまいります。また、在外邦人の安全確保に全力を尽くしてまいります。

 我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しています。中国及びロシアによる一連の領空侵犯も発生しました。これは、我が国の主権の重大な侵害です。北朝鮮は、核・ミサイル開発を継続し、近年、かつてない頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返しているほか、米国を射程に収める長射程ミサイルの開発も追求しています。これは、国連安保理決議違反であり、我が国のみならず、地域、国際社会の平和と安全を脅かすものです。このような中、国家安全保障戦略等に基づき、我が国自身の防衛力を抜本的に強化すべきことは論をまちません。

 防衛力の最大の基盤は、自衛官です。いかに装備品を整備しようとも、防衛力を発揮するためには、人的基盤を強化することが不可欠です。日本の独立と平和を守る自衛官の生活・勤務環境や処遇の改善に向け、総理大臣を長とする関係閣僚会議を設置し、その在り方を早急に検討し成案を得るものといたします。

 先の大戦中、沖縄では、国内最大の地上戦が行われ、多くの県民が犠牲になられたこと、戦後27年間、米国の施政下に置かれたことなどを、私は決して忘れません。基地負担の軽減にも引き続き取り組みます。在日米軍の円滑な駐留のためには、地元を含む国民のご理解とご協力を得ることが不可欠です。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます。また、いまだ全国最下位である1人当たりの県民所得や、子どもの貧困の問題などの課題も存在します。沖縄振興の経済効果は十分に域内に波及しているのだろうか、そしてそれが、本当に実感していただけているのだろうか。沖縄の皆様の思いに向き合い、沖縄経済を強化すべく支援を継続します。

 少子化対策

 少子化とその結果生じる人口減少は、国の根幹にかかわる課題、いわば「静かな有事」です。

 今の子育て世代が幸せでなければ、少子化の克服はありません。子育て世帯の意見に十分に耳を傾け、今の子育て世帯に続く若者が増えるような子育て支援に全力を挙げます。こども未来戦略を着実に実施するとともに、社会の意識改革を含め、短時間勤務の活用や生活時間・睡眠時間を確保する勤務間インターバル制度の導入促進など、働き方改革を強力に推し進めます。さらに、少子化の原因を分析し、子育て世帯に寄り添った適切な対策を実施します。

 少子化をめぐる状況は地域によって異なります。婚姻率が低い県は、人口減少率も高いことは厳然たる事実です。若年世代の人口移動を見ると、この10年間で全国33の道県で男性より女性の方が多く転出する状況となっています。若者・女性に選ばれる地方、多様性のある地域分散型社会を作っていかねばなりません。それぞれの地域において、地方創生と表裏一体のものとして若者に選ばれる地域社会の構築に向け、全力で取り組んでまいります。

 (経済・財政)

 日本経済のデフレ脱却を確かなものとし、日本経済の未来を創り、日本経済を守り抜きます。その中で、「デフレ脱却」を最優先に実現するため、「経済あっての財政」との考え方に立った経済・財政運営を行い、「賃上げと投資が牽引(けんいん)する成長型経済」を実現しつつ、財政状況の改善を進め、力強く発展する、危機に強靱(きょうじん)な経済・財政を作っていきます。

 イノベーションを促進すること等による高付加価値創出や生産性の向上、意欲ある高齢者が活躍できる社会を実現し、我が国のGDPの5割超を占める個人消費を回復させ、消費と投資を最大化する成長型経済を実現します。

 このため、コストカット型経済から高付加価値創出型経済へ移行しながら、持続可能なエネルギー政策を確立し、イノベーションとスタートアップ支援を強化していきます。また、経済安全保障の観点から、半導体などのサプライチェーンの国内回帰を含む強靱化や技術流出対策等を進めます。あわせて、能動的サイバー防御の導入に向けた検討を更に加速させるなど、サイバーセキュリティーの強化に取り組みます。柔軟な社会保障制度の再構築を実現するとともに、データに基づき財政支出を見直し、ワイズ・スペンディングを徹底していきます。

 私は、国全体の経済成長のみならず、国民1人当たりのGDPの増加と、満足度、幸福度の向上を優先する経済の実現を目標とします。そのために、官民で総合的な「幸福度・満足度」の指標を策定・共有し、一人一人が豊かで幸せな社会の構築を目指します。

 

 ■<4>国民を守る

 (物価に負けない賃上げ)

 日本の経済を守り、国民生活を守り抜きます。

 生鮮食品、エネルギーなどの物価高に国民の皆様は直面しておられます。物価上昇を上回る賃金上昇を定着させ、国民の皆様に生活が確かに豊かになったとの思いを持っていただかなければなりません。

 日本経済がコストカット型の対応を続けてきた「失われた30年」とコロナ禍での苦難の3年間を乗り越え、経済状況は改善し、賃金もようやく上がるようになってきました。しかしながら、国民の皆様に安心して消費をしていただける経済になるまでは道半ばです。

 こうした中、賃上げと人手不足緩和の好循環に向けて、一人一人の生産性を上げ、付加価値を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現してまいります。適切な価格転嫁と生産性向上支援により最低賃金を着実に引き上げ、2020年代に全国平均1500円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続けます。そのために、政府として、自由に働き方を選択しても不公平にならない職場づくりを目指した個人のリスキリングなど人への投資を強化し、事業者のデジタル環境整備も含め、将来の経済のパイを拡大する施策を集中的に強化します。

 高付加価値のモノとサービスを、グローバル市場において、適正な価格で売ることのできる経済を実現します。輸出企業の競争力を強化し、中小企業を中心とする高付加価値化、労働分配率の向上、官民挙げての思い切った投資を実現します。

 物価上昇を上回って、賃金が上昇し、設備投資が積極的に行われるといった成長と分配の好循環が確実に回り出すまでの間、足元で物価高に苦しむ方々への支援が必要です。こうした物価高への対応に加えて、成長分野に官民を挙げての思い切った投資を行い、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」の実現を図るため、経済対策を早急に策定し、その実現に取り組みます。当面の対応として、物価高の影響を特に受ける低所得者世帯への支援や、地域の実情に応じたきめ細かい対応を行うこと、構造的な対応としてのエネルギーコスト上昇に強い社会の実現など「物価高の克服」。新たな地方創生施策の展開、中堅・中小企業の賃上げ環境整備、成長力に資する国内投資促進など「日本経済・地方経済の成長」。能登半島をはじめとする自然災害からの復旧・復興、防災・減災、国土強靱化の推進、外交・安全保障環境の変化への対応、誰も取り残さない社会の実現、など「国民の安心・安全の確保」、を柱とします。

 (エネルギー)

 エネルギーの安定的な供給と安全の確保は喫緊の課題です。AI時代の電力需要の激増も踏まえつつ、脱炭素化を進めながらエネルギー自給率を抜本的に高めるため、省エネルギーを徹底し、安全を大前提とした原子力発電の利活用、国内資源の探査と実用化と併せ、我が国が高い潜在力を持つ地熱など再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜きます。このため、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の取り組みを加速させ、アジア諸国の多様な取り組みを日本の技術力や金融力で支援し、同時に、アジアの成長力を我が国に取り込んでいきます。

 イノベーションとスタートアップ支援)

 日本経済の活性化と成長を加速させるため、科学技術・イノベーション、宇宙などフロンティアの開拓を推進するとともに、スタートアップ支援策を引き続き強化していきます。政府の「スタートアップ育成5カ年計画」を着実に進め、アジア最大のスタートアップハブを実現します。AIの研究開発・実装がしやすい環境を更に充実し、政府のAI政策の司令塔機能を強化します。

 (「投資大国」の実現)

 経済活動の基盤である金融資本市場の変革にも取り組みます。貯蓄から投資への流れを着実なものとし、国民の資産形成を後押しする「資産運用立国」の政策を引き継ぐとともに、産業に思い切った投資が行われる「投資大国」に向けた施策を講じます。

 社会保障

 社会保障制度は、様々な境遇にある国民の方々に安心を提供するセーフティーネットです。将来不安を取り除き、皆が安心して充実して暮らせる、こうした日本を実現することによって未来を守り、次の時代に負担を先送りしない。それが今を生きる我々の責任です。

 医療・年金・子育て・介護など、社会保障全般を見直し、国民の皆様に安心していただける社会保障制度を確立します。その際、今の時代にあった社会保障へと転換し、多様な人生の在り方、多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行います。人口減少時代を踏まえ、意欲のある高齢者、女性、障害者などの就労を促進し、誰もが年齢に関わらず能力や個性を最大限生かせる社会を目指します。

 (良好な治安の確保)

 子供、女性、高齢者をはじめ、全ての方々が安心して暮らせるよう犯罪対策を推進し、「世界一安全な日本」を実現します。

 (防災、東日本大震災からの復興)

 度重なる災害から、国民の生命、身体と財産を守り抜きます。

 コロナ禍の最中は、ふるさとに戻ることすらできませんでした。やっと里帰りができるようになり、皆が待ちわびていた家族のだんらんが、能登半島では、今年の元日、地震により一瞬にして奪われました。亡くなられた方々に哀悼の誠を捧げるとともに、被災されている方々に心よりお見舞いを申し上げます。その後さらに能登半島地震の被災地を豪雨が襲い、河川の氾濫(はんらん)や土砂災害が相次ぎ、多くの尊い人命が失われました。度重なる被災の前の活気ある能登を取り戻すため、復旧と創造的復興に向けた取り組みを一層加速してまいります。

 世界有数の災害発生国である、この日本において、近年の更なる風水害の頻発化・激甚化に早急に対処できる人命最優先の防災立国を構築しなければなりません。防災・減災、国土強靱化の取り組みを推進します。事前防災の徹底に向けて、まず、現在の内閣府防災担当の機能を予算・人員の両面において抜本的に強化するとともに、平時から不断に万全の備えを行うため、専任の大臣を置く防災庁の設置に向けた準備を進めてまいります。

 日本では、ひとたび災害が起きると、被災者の方々は避難所で厳しい生活を強いられます。平成28年に起きた熊本地震では、直接亡くなられた方々の4倍もの方々が、避難生活の中で健康を崩されるなどして、災害関連死として亡くなられています。被災して大きな悲しみや不安を抱えている方々に手を差し伸べ、温かい食事や安心できる居住環境を提供することが必要です。災害関連死ゼロを実現すべく、避難所の満たすべき基準を定めたスフィア基準も踏まえつつ避難所の在り方を見直し、発災後速やかにトイレ、キッチンカー、ベッド・風呂を配備しうる平時からの官民連携体制を構築します。

 福島の復興なくして、東北の復興なし。東北の復興なくして、日本の再生はありません。被災者の生活や、産業・なりわいの再建に全力で取り組んでまいります。一部の国・地域による日本産水産物の輸入停止に対し、岸田政権での取り組みを生かし、あらゆる機会をとらえて即時撤廃を強く求めるとともに、影響を受ける水産物国内需要の拡大や新たな輸出先の開拓など、我が国水産業の更なる発展のために、政府として責任を持って支援を行ってまいります。

 

 ■<5>地方を守る

 (地方創生)

 地方創生の原点に立ち返り、地方を守り抜きます。10年前に私は初代地方創生担当大臣を拝命し、文化庁の京都移転、それまでの補助金とは一線を画する地方創生推進交付金の創設をはじめ、一生懸命取り組みました。以来、交付金などを活用し、住民の方々が気持ちを一つにして地方創生の取り組みに頑張っていらっしゃる姿を全国各地にたくさん見てまいりました。そして、その姿に勇気づけられてまいりました。

 竹下総理はかつて、「地域が自主性と責任を持って、おのおのの知恵と情熱を生かし、小さな村も大きな町もこぞって、地域づくりをみずから考え、みずから実践していく」と述べられました。「産官学金労言」、すなわち、産業界、行政機関、大学だけではなく中学校・高等学校も含めた教育機関、金融機関、労働者の皆様、報道機関の皆様。こうした地域の多様なステークホルダーが知恵を出し合い、地域の可能性を最大限に引き出し、都市に住む人も地方に住む人も、すべての人に安心と安全を保障し、希望と幸せを実感する社会。それが地方創生の精神です。いま一度、地方に雇用と所得、そして、都市に安心と安全を生み出します。

 「地方こそ成長の主役」です。地方創生をめぐる、これまでの成果と反省を生かし、地方創生2・0として再起動させます。

 全国各地の取り組みを一層強力に支援するため、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増することを目指します。

 少子高齢化や人口減少に対応するため、デジタル田園都市国家構想実現会議を発展させ、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間集中的に取り組む基本構想を策定します。ブロックチェーンなどの新技術やインバウンドの大きな流れなどの効果的な活用も視野に入れ、国民の生活を守りながら、地方創生を実現してまいります。

 地方の成長の根幹である農林水産業は、農山漁村の雇用と所得を生み出すとともに、国家の安全保障の一環でもあることから、その持てる力を最大限引き出してまいります。新たな基本法の下、最初の5年間に計画的かつ集中した施策を講じることにより、食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立、農林水産業の持続的な発展、中山間地域を始めとする農山漁村の振興を図ります。国内の生産基盤の維持の観点も踏まえ、農林水産物の輸出をより一層促進します。持続可能な食品産業への転換を促進し、循環型林業など強い林業づくりや、海洋環境の変化を踏まえた操業形態や養殖業への転換、海業の全国展開など漁業・水産業の活性化に取り組みます。

 観光産業の高付加価値化を推進するとともに、文化芸術立国に向けた地域の文化、芸術への支援強化にも取り組みます。地域交通は地方創生の基盤です。全国で「交通空白」の解消に向け、移動の足の確保を強力に進めます。

 地方創生に終わりはありません。「地域づくりは人づくり」。人材育成こそ全てです。私が先頭に立って、国・地方・国民が一丸となって地方創生に永続的に取り組む機運を高めてまいります。

 (大阪・関西万博)

 2025年大阪・関西万博は、世界と交流を深め、日本の魅力を世界に向けて発信する絶好の機会です。多くの方に来場いただき、楽しみ、そしてそれぞれの将来に夢と希望を持ってもらう、またとない機会です。成功に向け関係者と心を合わせて取り組んでまいります。

 

 ■<6>若者・女性の機会を守る

 若者・女性、それぞれの方々の幸せ、そして人権が守られる社会にしていかなければなりません。

 (教育改革)

 「人づくりこそ国づくり」。この考え方のもと、デジタル技術の活用を前提に、自ら考え、自由に人生を設計することができる能力の育成を目指します。あらゆる人が、最適な教育を受けられる社会を実現します。教職員の処遇見直しを通じた公教育の再生に全力を挙げます。

 強靱で持続性ある「稼げる日本」の再構築のためには、教育やリスキリングなどの人的資源への最大限の投資が不可欠です。人生のあらゆる局面で何度でも必要な学びが得られる体制を整備します。

 (女性活躍と女性参画)

 意思決定の在り方を劇的に変えていくため、社会のあらゆる組織の意思決定に女性が参画することを官民の目標とし、達成への指針を定め、計画的に取り組みます。男女間の賃金格差の是正は、引き続き喫緊の課題です。多くの女性に社会活動を長く続けてもらえるにはどうすればよいか、国民的議論を主導して制度改革を実現します。

 (自殺対策)

 コロナ禍で増加した女性の自殺者数が高止まりし、こども・若者の自殺者数が増加傾向にあることを踏まえ、自殺総合対策を強力に進めます。

 

 ■<7>おわりに

 憲法改正

 憲法改正について、私が総理に在任している間に発議を実現していただくべく、今後、憲法審査会において、与野党の枠を超え、建設的な議論を行い、国民的な議論を積極的に深めていただくことを期待します。

 日本にとって、皇位の安定的な継承等は極めて重要なことです。とりわけ皇族数の確保は喫緊の課題です。国会において、早期に「立法府の総意」が取りまとめられるよう、積極的な議論が行われることを期待します。

 (納得と共感の政治)

 私は、議員になる1年前の昭和60年、渡辺美智雄代議士の、「政治家の仕事は勇気と真心をもって真実を語ることだ」との言葉に大きな感銘を受けました。爾来(じらい)40年、こうありたいと思い続け、今、この壇上に立っております。政治を信じていただいている国民の皆様が、決して多くないことを私は承知しております。しかし、政治は国民を信じているのでしょうか。どうせ分かってはもらえない、そのうち忘れてしまうだろうなどと思ってはいないでしょうか。国民を信じない政治が、国民の皆様に信じていただけるわけがありません。勇気と真心をもって真実を語り、国民の皆様の納得と共感を得られる政治を実践することにより、政治に対する信頼を取り戻し、日本の未来を創り、日本の未来を守り抜く決意です。

 以上、私の思いを申し述べました。

 かつての日本は、今ほど豊かではなかったかもしれません。しかし、もっとお互いを思いやる社会でした。皆に笑顔がありました。いつの間にか、日本はお互いが足を引っ張ったり、悪口を言い合ったりするような社会になってしまったのではないでしょうか。私は、もう一度、全ての国民の皆様に笑顔を取り戻したい。

 「すべての人に安心と安全を」

 国民の皆様、並びに、この場に集う全国民を代表される国会議員の皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。

 

 

 

 

 

 

 

 

14面=社説、

 

 裏金問題で失った「政治への信頼」回復を第一に挙げながら、そのための具体策は示さない。一方、自民党内では、処分を受けた議員らを次の衆院選で原則公認とする調整が進む。内実を伴わない言葉をいくら重ねても、看板に掲げた国民の「納得と共感」は得られないと知るべきだ。

 石破首相がきのう、就任後初の所信表明演説を行った。「問題を指摘された議員と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」などと抽象的に語るだけで、裏金の実態解明のための再調査には踏み込まず、抜本的な政治資金改革に向けた提案もなかった。

 首相は衆院解散前の国会論戦の重要性を繰り返し主張しながら、総裁に選出されるや態度を一変し、早々に選挙に踏み切る方針を表明した。いくら「国民のための政治」をめざすと言われても、実際は党内事情を優先しているとしか見えない。国民の信は遠のくばかりだろう。

 演説で首相は、自らの「説明責任」にも触れた。ならば、新たに浮上した旧石破派の政治資金をめぐる疑惑について、率先して明らかにしてもらいたい。3年間で計80万円のパーティー収入が収支報告書に記載されていないという。「裏金」ではないのか。他に不記載はないのか。納得のいく説明が求められる。

 岸田前首相が政治不信を招いた理由のひとつとした、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党との関係について、演説は素通りだった。安倍首相(当時)が教団トップと面談していた写真が公になり、「組織的な関係はない」という主張に疑問符がつけられた。信頼回復を言うなら、この問題も避けて通れないはずではないのか。

 政策の各論は前政権からの踏襲が目立った。思い入れの強い地方創生の拡充や持論の防災庁設置に向けた準備、総裁選公約だった2020年代に全国平均1500円への最低賃金の引き上げなどに、独自色が見られたが、いずれも具体策や実現への道筋など、肉付けはこれからである。

 沖縄の戦中戦後の苦難の歴史に言及しながらも、米軍普天間飛行場辺野古移設は推進。地位協定の改定に触れなかったのは期待はずれだ。

 首相は就任会見で、国会では「自分の言葉で語りたい」「国民の心に響くようにしたい」と述べていた。最終日の党首討論を含め、論戦の機会は残り3日間。来たるべき衆院選に向け、限られたやりとりで、本当に国民に十分な判断材料を示せるのか。ここでも首相の言葉が試される。

 

 

 

15面=多事奏論

 

うんとこどっこいしょ。ベッドを新調した際、マットレスは半年に1回くらい上下あるいは裏表を返してください、でないと早くヘタってしまいますよとアドバイスされたことを思い出し、重い腰を上げた。裏表を返すのはそこそこの重労働、ついでに隅のほこりを拭ったり隙間に挟まっていた文庫本を救出したり。脇のテレビは石破茂自民党新総裁誕生のニュースを延々と流している。

 考えてみれば自民党政権というマットレス安倍晋三元首相時代から10年余、上下も裏表も一度も返されていない。ヘタりきっててもはや捨て時、替え時だろう。それでも、石破氏が本気で上下くらいは返そうとするなら、拍手のひとつも送るのにと、ちょっと夢想してみる。

 推薦人20人のうち13人が「裏金議員」だった高市早苗氏が、党員票で1位になったことにはうなった。そして高市氏の敗戦の弁、「今日が安倍総理国葬儀から2年目の日だ。いいご報告ができなかったことを申し訳なく思っている」にはうめいた。ヘタりきったマットレスを「御神体」としてあがめかねない勢い。高市氏が首相にならずホッとした――それだけは言えるとも言えるし、それだけしか言うことはないとも言える。

    *

 まったき消去法ではあっても、あの9人ならイシバシガマシと思った自分を実はいまだ持てあましている。いやはや政治部に配属された四半世紀前、こんな日がくるとは夢にも思わなかった。

 「軍事オタク」のタカ派として存在感は示していたけれど、あくまでサブ&変人キャラ。それが、世の中および自民党がぐっと右ブレするなかでいつしか「穏健保守」くらいの位置づけとなり、「一強」の安倍氏と距離をおいて野にあり続けたからこそ、5回目の挑戦で今回、自民党総裁=首相の座を射止めた。まあ、ヘタりきったマットレスの上で見る悪夢の中では上等なほうと言えるだろう。

 総裁就任会見で石破氏が、自民党が下野していた3年3カ月を忘れてはならないと強調し、綱領にうたった「原点」――自由闊達(かったつ)に真実を語り、あらゆることに公平公正で、常に謙虚な政党でなければならない――に返ると述べたことに、私は涙を禁じ得なかった。ううう。「全国民の代表で構成される野党の方々とも論戦をかわし」という言葉遣いに、野党への最低限の敬意を感じて涙。なにより紙を読みあげずに立て板で語る姿に涙。もちろん、うれし涙であるはずはない。そんな程度のことが新鮮に映るほど、政治家への期待がこの10年余の間に地に落ちてしまっていたことに気づかされたがゆえの悔し涙である。

 新首相としてやるべきは、「自由」「真実」「公平公正」「謙虚」をないがしろにし、政治の荒廃をもたらした安倍政治との真の意味での決別だ。その初手として、裏金問題で処分された議員は次の選挙で公認しない。当初は前向きな姿勢を見せていたからこそのイシバシガマシだったのに、早くも腰抜けぶりを露呈させている。予算委員会を開いてから解散総選挙という従来の言も翻し、それで「納得と共感内閣」だなんて……寝言? イシバシガダマシ。野花を摘んで花瓶に挿したら即しおれましたとさ。

    *

 さあ、いやがおうでも総選挙だ。この3年間、主権者は浅い眠りを強いられ、十分な説明や議論もないまま、重要なことが勝手に決められてきた。覚醒し、悔いなき選択をしよう。主権者こそこの国のあるじ。ゆめゆめ忘れることなかれ。

 編集委員

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   首相は冒頭、自民党派閥の裏金事件が政治不信を招いたことに触れ、「深い反省」が必要だとした。そのうえで「問題を指摘された議員に反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げる」と語った。

 演説では第2次安倍政権で自身が初代担当相を務めた地方創生について時間を割いた。「地方こそ成長の主役」として、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増するとの目標を掲げた。「新しい地方経済・生活環境創生本部」を立ち上げ、今後10年間の取り組みについて基本構想を策定するとした。

 また、「人命最優先の防災立国」の構築に向け、「防災庁」設置の必要性を改めて強調した。

 一方、重視する安全保障政策をめぐっては、自民党総裁選の公約に盛り込んでいた日米地位協定の改定、「アジア版NATO北大西洋条約機構)」の創設には一切触れなかった。こうした首相の持論を疑問視する声が日米双方から上がる。

 経済対策ではデフレ脱却、物価上昇を上回る賃金増加、起業支援などを掲げたが、いずれも岸田政権の路線継承で、独自性は乏しい。社会保障全般の見直しに言及しつつも、具体的な負担のあり方などは示さなかった。

 首相周辺によると、自民党内で方向性が共有できていない施策の打ち出しは避けたという。(南有紀、森岡航平)

 

 ■所信表明演説(骨子)

 ●「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」が5本柱

 ●裏金問題に関与した議員に反省を求め、ルールを守る倫理観を確立する

 ●日米同盟は安全保障の基軸。中国とは「戦略的互恵関係」を推進

 ●防災立国を構築する。専任大臣を置く防災庁設置の準備を進める

 ●地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増することを目指す