中国古代の楚の国。盾は絶対に突き通せず、矛は何でも突き通せると自慢した商人が「お前の矛でその盾を突けばどうなる」と問われ、答えに窮した。中国古代の思想家、韓非子(かんぴし)が記す「矛盾」の由来の故事だ
▲前段に儒教批判がある。孔子が理想とした伝説の帝王、尭(ぎょう)の時代。農民や漁師の争いが起き、後に帝位を継ぐ舜(しゅん)がこれを収めた。韓非子は尭が聖人なら争いは起きず、舜が聖人なら尭が過ちを犯したことになると冒頭の故事を引いた。尭舜を同時に聖人とたたえるのは「矛盾」というわけだ
▲「聖人政治」さえ不条理なら今の世に二律背反の矛盾を抱えた政治が少なくないのも当然か。国民の安全を守ると言いながら戦線を拡大して敵をたきつけるイスラエルのネタニヤフ政権が典型的である
▲イスラム組織ハマスや親イランのヒズボラの指導者を殺害し、イランから多数の弾道ミサイルで報復攻撃を受けた。ガザでの戦闘開始から1年。レバノン南部にも侵攻したが、イスラエルの安全が高まったとはいえないだろう
▲イラン側は極超音速ミサイルを初めて使用したという。中露などが米国のミサイル防衛に対抗して開発したゲームチェンジャーだ。配備が進めば、イスラエルが誇る「アイアンドーム」の守りも突破されかねない
▲どんなに堅い防御(盾)で安全を守ろうとしても、それを突破する攻撃兵器(矛)が生まれるイタチごっこが続いてきたのが古代以来の戦争の歴史である。安全を確実にするには結局、和平の道しかない