徒然なる儘に ・・・ ⑤

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「初動に人災」「阪神の教訓ゼロ」 能登入りした防災学者の告白 能登半島地震 聞き手・山内深紗子2024年1月14日 21時00分

 初動に人災の要素もある――。防災研究の第一人者で、石川県の災害危機管理アドバイザーも務めてきた神戸大名誉教授の室崎益輝さん(79)は、能登半島地震の初動対応の遅れを痛感しています。自戒の念もこめて、今、伝えたいこととは。

 ――6~7日に能登入りして、支援物資を届けて視察しました。

 これから指摘することは、私の責任でもあります。県の災害危機管理アドバイザーを務めてきましたから。やるせなさ、自戒もこめて、長年防災と復興支援に関わってきた一人として、誰かが言わなければ、言葉にしなければと。今の段階で、声を上げなければと思いました。トップ、そして関わってきた私たちそれぞれが考えないといけないといけません。

 今回、すぐに現地入りしたかったのですが、交通事情や、なるべく立ち入りを避けて、というメッセージが強かったため、発災から5日後に珠洲市能登島以外の全域をくなまく視察しました。県庁、被災自治体、避難所などを凝縮して回りました。活動しているNPOにも接触しました。

 初動対応の遅れがとても気になりました。

 これまでの多くの大震災では、発災から2、3日後までに自衛隊が温かい食事やお風呂を被災された方々に提供してきました。

 でも今回は遅れた。緊急消防援助隊の投入も小出しで、救命ニーズに追いついていない。本来は「想定外」を念頭に、迅速に自衛隊、警察、消防を大量に派遣するべきでした。

 被災状況の把握が直後にできなかったために、国や県のトップがこの震災を過小評価してしまったのではないでしょうか。初動には人災の要素を感じます。

国や県のトップが、震災を過小評価した

 避難所に水や食べ物、物資の搬入が遅れたのは、半島で道路が寸断されるなどした地理的要因もありますが、被災地で起きていることを把握するシステムが機能しなかったことも要因です。それがトップの判断を誤らせています。

 迅速な初動体制の構築は、阪神淡路大震災から数々の震災の教訓として積み重ねられ、受け継がれてきました。それが今回はゼロになってしまっている印象を受けました。

 災害対応の「基本」とは何か――。災害はみな異なるので難しい問題です。それでも、私たちはこの問いから逃げてはいけないように思います。それは、被災者の命に関わるからです。

 私は防災研究者として阪神淡路大震災で被災も経験しました。その原点がある。

 神戸では震度6以上の地震は起きていなかったから、防災計画は震度5を想定した。でも震度7地震が起き、「震度7を想定してくれていれば」と市民から重い言葉をもらいました。そこから「想定外」を大切に、国内外の被災地を歩き、行政だけでなく市民同士の対話を大切に、復興・減災の支援をしてきました。

ボランティア絞り、公の活動足りず、後手の対応続く

 ――初動について、詳しくどう見ていますか。

 自衛隊、警察、消防の邪魔になるからと、民間の支援者やボランティアが駆けつけることを制限しました。でも、初動から公の活動だけではダメで、民の活動も必要でした。医療看護や保健衛生だけでなく、避難所のサポートや住宅再建の相談などに専門のボランティアの力が必要でした。

 苦しんでいる被災者を目の前にして、「道路が渋滞するから控えて」ではなく、「公の活動を補完するために万難を排して来て下さい」と言うべきでした。

 マンパワー不足と専門的なノウハウの欠如で、後手後手の対応が続いてしまっている。政府は「お金は出します」というリップサービスではなく、関連死を防ぐなどの緊急ニーズに応えられる具体的な対策を提供すべきで、「必要な人材を出します」というサービスに徹するべきです。

 先を読んで、刻々と変わる状況に的確に対応できていないことも心配しています。

 現場のニーズを把握し、吸い上げてすぐ決定していくことができていないのではないでしょうか。被災者第一で、国、県と市町との連携を改善する必要もあります。

 なぜ、この初動だったのか?

 防災計画はきれいに描いてきた。でも、そのマネジメントがうまくできていない。なぜなのか?と。

「司令部と被災地の距離遠い」「縦割り気になる」

 行政職員の経験や知識を蓄積すべきです。阪神淡路大震災東日本大震災熊本地震で指揮を執った経験のある幹部クラスを今すぐに、石川県の本部の支援アドバイザーとして送り込む必要があります。高度な専門性と深い被災地の経験を積極的に採り入れるべきです。

 司令部と被災地との距離が遠い、縦割りになってしまっているのも気になります。有機的に動ける指令系統にする必要があります。

 ――ボランティアへの対応については?

 地理的な要因や交通渋滞があるので、「ボランティアはまだ行かないで」と最初から強く国も県も自治体も伝えました。一部の専門性の高いボランティアも同じことをSNSなどで伝え、拡散した。

 この影響で、私のような研究者や多くのボランティアでさえ、被災地に入ることをためらった。

 初動が円滑で、大量に自衛隊と警察、消防を入れてぬかりなく進められていたら、百歩譲ってボランティアの規制も問題なかったのかもしれない。

 でも初動で、一部のボランティアしか入らなかったために、水や食事が手に入らず、暖もとれず、命のぎりぎりのところに被災者が直面した。それなのに、ボランティアは炊き出しにも行けなかった。

 行くのをためらった状態を作ったことは大きな間違いだったと思います。そして、先に入った一部のボランティアまでが、行政と同じように「来ないで」と伝えたのにも、大きなショックを受けました。

 「ボランティア元年」と言われた阪神淡路大震災を考えると、今回の発災では、ボランティア自身の線引きや権威主義化に違和感を覚えました。

 どんな被災地でも、スタンドプレーのように目立とうとする迷惑なボランティアはいます。そういう人たちに向けて、ブレーキとしてのメッセージが必要なのは分かります。

 しかし、今回は「控える」の一色になったことで、被災者にとても厳しい結果を招いたと思います。交通渋滞の問題ならば、例えば緊急援助の迷惑にならない道をボランティア・ラインとして示す方法もあったのではないか、と思います。

「あすの命を大切に」 先読みして的確な判断を

 ――災害関連死が懸念されます

 首相はいま、1・5次避難、2次避難を呼びかけています。この呼びかけは正しいと思いますが、地域単位での避難を行うべきだと思います。

 一方で、避難所から動けない人もいますが、避難所への看護師常駐も遅れています。避難所や自主避難先にもっと大量に保健師や看護師を派遣することが必要です。

 DMATも入っていますが、まだまだ人数は足りていない。被災者の相談に乗ることも、おろそかになってしまっています。

 高齢者施設や障害者施設で、とどまる選択をした人たちに生活支援を継続できるように、福祉専門職の派遣を加速する必要があります。

 「いまの命も大切だが、被災地ではあすの命を考えるべきだ」と私は言っています。

 すでに災害関連死とみられるケースが確認され、避難所ではコロナ感染者も増えている。保健衛生や災害看護の支援をもっと手厚くしなければ災害関連死が増えてしまうと強く懸念します。

 そのためにも、現場で起きていること、それに対するニーズを迅速にすくい上げ、すぐに判断して的確に差配できる人やネットワークをつくらないといけません。

 ――今後の復興をどう見ていますか?

教訓が活かされるよう軌道修正を

 劣悪な避難環境から救い出すために、仮設住宅の建設は急ぐ必要があります。阪神淡路大震災でも、発災から3日目に着工している。そのスピード感がない。

 復興委員会も立ち上がっていないし、そこまでの議論もできていない。先読みして、復興のグランドデザインを描きながら住宅再建を進める必要がありますが、それもできていない。過去の震災では、災害支援や復興計画の専門家が首長につきっきりで的確な助言をしてきたけれど、その態勢もできていません。

 責任をもつ覚悟を私自身も、かみしめています。そのことから逃げてはいけない。だからあえて今、お話ししました。もちろん、もっと後に検証をしていくことになる。でも被災者の命や生活を守れるかが、かかっている。教訓がいかされるよう、軌道修正をしなければ。

 能登群発地震で、断層が連動して動き大地震になることを、私も想定できていませんでした。あれほど、「想定外」の幅を持って物事を考えるんだと、言い聞かせていたのに。各避難所に段ボールベッドを必ず配備するなど、助言するべきだったのに、できていなかった。

 悔恨の念にかられています。でも時は待ってはくれません。人と人とが被災者を中心に支え合う。ともに考え、司令塔は、より重い責任を再確認し、基本に立ち返り、柔軟に迅速に的確に動く。私たちが過去の被災地の経験から学び、めざしてきたことを、もう一度確かめ合う必要があると思います。(聞き手・山内深紗子)

    ◇

 むろさき・よしてる 1944年、兵庫県生まれ。1969年から本格的に防災研究を始める。神戸大名誉教授。著書に「災害に向き合い、人間に寄り添う」など。