「昔は良かったなぁ」と思うようになると、人生そろそろ終着駅に近づいてきたと覚悟した方がいい。と、ラジオで聞いた覚えがあるのだが、誰がそんな話をしたのか思い出せない。歳(とし)だねぇ。
▼たまたま金曜夜、旅の宿でテレビをつけると、クドカンのドラマ「不適切にもほどがある!」をやっていた。クドカンとは、脚本家であり、演出家であり、ミュージシャンでもある才人だが、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の作者といえばおわかりだろう。
▼これがなかなかの拾い物だった。何しろ「不適切な台詞(せりふ)や喫煙シーンが含まれていますが、…あえて使用して放送します」というテロップが2度も出てきた。確かに小欄でも書くのをはばかられる「おっ〇い」などの台詞が、ポンポン飛び出す。これだけでも「コンプライアンス」に縛られ、つまらなくなった令和のテレビを十二分に刺激する。
▼昭和の昔に中年教師が、紫煙をくゆらせながら都バスに乗っている間に(座席に灰皿があったのだ!)、令和の御世(みよ)へとタイムスリップというせこい設定もいい。当時は、車内や路上での喫煙も学校での体罰も当たり前の時代。昭和の常識が、令和の非常識になってしまったのが、笑いとともに身に染みる。
▼今や自衛官が、公用車を利用して安全祈願のため靖国神社を参拝したら処分される時代だ。そのうち酒場で上司や部下の悪口をつぶやいただけで、お縄を頂戴しかねない。
▼昭和の遺物といえる派閥も風前の灯(ともしび)だ。安倍派や岸田派だけでなく、茂木派も脱藩者が相次ぎ、麻生派とて安泰ではない。田中角栄や福田赳夫らが群雄割拠した熱き時代は、終わったのだ。それでもオジサンは、心の中でこうつぶやく。「昔は良かったなぁ」