徒然なる儘に ・・・ ⑤

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不適切なSNS投稿で罷免、裁判官の責任重視 異例ずくめの弾劾裁判 遠藤隆史 米田優人 聞き手・米田優人 聞き手・金子和史2024年4月3日 22時00分

 SNSへの投稿などを理由に開かれた弾劾(だんがい)裁判の結論は、「罷免(ひめん)」だった。重視されたのは裁判官に課された責任の重さ。一方、運営面では課題も残した。

 「今回は非常に特殊なケース。(判断には)大変厳しいものがあった」

 判決後に裁判所内で開かれた会見で、裁判長を務めた船田元衆院議員はそう語った。

 近年の罷免は盗撮などの犯罪行為やそれに類するものが理由だが、今回は私的なアカウントで発信された投稿が問題とされた初の事案だった。

 岡口基一氏がツイッター(現X)を始めたのは2008年。裁判官とは名乗らなかったが、プロフィルには実名と顔写真を載せていた。1日に10~15件、計4万件ほどの投稿をしたという。法改正の情報などを発信して法律家らから支持される一方、上半身裸でブリーフ姿の自撮り写真を公開するなど、奔放な投稿で物議をかもした。

 こうした投稿について、東京高裁は16年と18年に「裁判官の品位と国民からの信頼を傷つけた」などとして岡口氏を厳重注意。今回訴追された一連の投稿でも、最高裁が18年と20年に戒告の懲戒処分を科していた。

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裁判官弾劾裁判所に入る岡口基一・仙台高裁判事(右)=2024年4月3日午後1時43分、東京・永田町、上田幸一撮影

 訴追された投稿が「不適切」である点に争いはなかったが、罷免までする理由になるのか。判決が重視したのは、国民が裁判官に寄せる「信頼」だった。

 判決はまず、裁判の役割を安定して果たすのに絶対不可欠なのが「国民の裁判に対する信頼だ」と説明。裁判官には、法律判断への高度な素養だけではなく、「人格的にも国民の尊敬と信頼を集めるに足る品位」が必要だとした。

 その上で、訴追された行為の一つひとつを見れば、岡口氏側の言動には一定の合理性があったことは認めつつ、女子高校生殺害事件と犬の所有権訴訟をめぐる投稿などは、その信頼を損なう「非行」だと判断した。

 ただ、裁判官を罷免するには、単なる「非行」ではなく、「著しい非行」を裁判官弾劾法は求めている。判決もこの点を考慮する姿勢を見せたが、基準にしたのはやはり「国民の信頼」だった。

 裁判官が「憲法の番人」の役割を果たすことを踏まえ、著しい非行と判断できるケースは「国民の信託に対する背反が認められる場合」と指摘。その上で、女子高校生殺害事件をめぐる「無残にも殺されてしまった17歳の女性」という投稿に始まる一連の言動の大半を「憲法の番人の役割からかけ離れている」とし、著しい非行だと認定した。

 弁護側は「国民の信頼」を害したことは立証されていない、と訴えたが、判決は「立証の程度や方法は時の弾劾裁判所の裁量に属することだ」と退けた。

 判決は、弾劾裁判で問われるものは「裁判官の人格だ」とも言及した。裁判官に期待される信頼の重みを繰り返し強調し、犯罪行為でなくとも罷免になる、という結論を導いた。遠藤隆史、米田優人)

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弾劾(だんがい)裁判の仕組みと流れ

浮き彫りになった課題

 過去にない理由で開かれた今回の弾劾裁判は、判決に至るまでの経緯も異例ずくめだった。

 特徴的だったのは、審理の長さだ。

 岡口氏の公判は22年3月に始まったが、初公判から第2回までは8カ月空いた。初公判から判決まで約2年間、公判の回数は16回に及んだ。過去9例で最長は13回で、審理が1年を超えたのは初めてだった。船田裁判長は判決後の会見で、長期化の理由を、SNS発信をめぐる事案だった点から「証拠調べなどについて通常の裁判とほぼ同様の時間と労力が必要だった」と述べた。

 裁判官役と検察官役をいずれも国会議員が担い、国会対応などの合間に裁判に臨むため、予定調整が難しかった。その結果、初公判から結審までの15回で、裁判員14人が全員そろったのは4回だけ。判決の最終判断に関わった12人のうち、15回全てに参加したのは、わずか3人だった。

 裁判員を務めたある議員は「入れ替わりもある中で、議論についていくのが難しかった人もいたのでは」。一堂に会する機会も限られていたといい、「もっと集まって議論をしたいと話す人もいた」と明かした。

 裁判官には10年ごとに任期の更新があり、岡口氏は今月12日に任期満了を迎える予定だった。結果的に判決で罷免されたが、もし解散総選挙などがあれば、結論に至らないまま、岡口氏の退官で裁判が打ち切られていた可能性もあった。

 公判で弁護側がたびたび訴えたのが、審理の「厳密さ」への疑問だ。

 裁判官弾劾法は、罷免の理由となる事案が発生してから3年を過ぎると訴追ができない、と定める。今回訴追された13件の行為のうち、4件については訴追時点で3年が過ぎていた。弁護団は一貫して批判したが、判決は行為全体を一連のものととらえて問題視しなかった。

 審理の過程では、裁判員だった山下貴司衆院議員(自民)が、弁護側証人を批判するために、証拠請求されていない文献を読み上げる一幕もあった。弁護側が「不公正な裁判をするおそれがある」として裁判員から外す「忌避」を申し立て、山下議員は自ら辞職した。

 船田裁判長は「長い裁判でいろんな教訓がある。今回の経験を生かして、制度の改善を今後やれれば」と話した。遠藤隆史、米田優人)

「司法への信頼」本質に基づく判決

 日本大学法学部の柳瀬昇教授(憲法)の話 国民一般の司法への信頼が損なわれたかどうかという弾劾(だんがい)裁判の本質に基づいた判決だ。私的発信が問われた初の事例で、裁判員の間で議論を重ねて丁寧に判断したこともうかがえ、評価できる。

 裁判官にも「表現の自由」があるといっても、どんな表現でも許されるかは別問題だ。ほかの裁判官への影響を懸念する声もあるが、岡口氏自身に萎縮する様子がみられず、SNSで発信したいと思う裁判官が実際にはあまりいない点をふまえれば、萎縮効果はないのではないか。

 最高裁の内部処分である戒告と、憲法に定めがある弾劾裁判とは異なる手続きだ。訴追したことも問題はなかった。

 ただ、「国民の信頼を害したか」の認定について、時の弾劾裁判所の裁量に委ねられるとした点は、独立を保障された裁判官の地位を危うくする危険性があり、疑問が残る。(聞き手・米田優人)

弾劾裁判 やや行きすぎの感じがある

 元東京高裁部総括判事の定塚誠弁護士の話 裁判官には物事を中立的・客観的に判断する行動が日常でも求められる。そうした職責に照らせば、今回の判決そのものは常識的な判断だ。投稿を見た人は裁判官の意見と捉えるはずで、投稿が他人からどう見られるのかは、より慎重に考慮しないといけない。裁判官の意見は判決で書くべきで、専門外の論評は自重すべきだ。

 ただ、罷免(ひめん)は裁判官にとっての「死刑判決」とも言える。過去の事例と比べ、今回の件を弾劾(だんがい)裁判にかけることは、やや行き過ぎの感がある。本来は、専門家らで構成する独立の機関をつくり、判断するのが望ましいのではないか。(聞き手・金子和史)

     ◇

 判決を出した裁判員は以下の通り。

 船田元(裁判長)▽松山政司階猛山本有二葉梨康弘杉本和巳北側一雄福岡資麿森雅子小西洋之▽伊藤孝江▽片山大介