徒然なる儘に ・・・ ⑤

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第1回 教団「ここからは戦争だ」 首相答弁を一転させた、直後の緊急会議 深流Ⅳ 安倍氏銃撃から2年 2024年7月8日 5時00分

 首相官邸の一室。緊急会議が秘密裏に開かれていた。安倍晋三元首相が銃撃され、死亡した事件から3カ月余。2022年10月18日午後のことだ。

 首相秘書官や法務省文化庁の幹部が議論したのは、岸田文雄首相の答弁の軌道修正だった。

 「民法不法行為は入らない」。同日午前、国会で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る質疑があり、首相は解散命令の要件を問われ、そう明言した。

 宗教法人法は「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」があった場合などに、裁判所が宗教法人に解散命令を出せると定める。裁判所に解散命令を請求できるのは文部科学省などだ。

 条文には、「法令」とあるだけ。刑法とも民法とも限定していない。

 だが、オウム真理教に解散を命じた1995年の東京高裁の決定は「刑法等」とし、解散命令の判例として重視されてきた。法令違反による解散命令が確定したのはオウムなど2例のみだが、いずれも刑事事件として摘発されたケースだった。

 旧統一教会には、高額献金問題などをめぐって民法不法行為を認めた判決があるが、オウムのように教団の組織的な行為が刑事訴追されたわけではない。

 このため文科省は、まだ例のなかった民法不法行為に基づく解散命令請求に慎重な姿勢をとってきた。首相答弁も、その延長線上にあった。

 安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件から、8日で2年。旧統一教会との関係が厳しく問われた中央・地方の政界における変容と、解散命令請求をめぐる政府内の水面下の動きをさぐります。「深流」シリーズの第4弾です。

内々に検討を始めていた文科省

 だが、この頃、政府はその方針を変えざるを得ない状況に置かれていた。教団への批判が高まり、「社会の雰囲気が、過去に高額献金が問題視された頃とまるで違った」(文科省関係者)。消費者庁有識者検討会も教団への解散命令請求を視野に入れた調査を促した。

 そうした事情もあり、文科省は首相答弁の「少し前」(同省幹部)から、民法不法行為を理由に解散命令を請求することも視野に、内々に検討を始めていた。

 首相答弁は、そのさなかで飛び出した。省内の最新の検討状況を反映していない答弁だったため、「答弁を聞いて、あれっと驚いた」と同省関係者は振り返る。

 「修正したほうがいい」。答弁直後、政府内でそんな意見が飛び交った。午後になって召集された緊急会議の結果、18日の答弁はこう整理された。東京高裁のオウムへの解散命令は刑事事件が理由だったという、個別事例の説明をしたに過ぎない――。

 一夜明けた10月19日の国会。この整理に沿った答弁をした岸田首相は、解散命令の要件に「民法不法行為も入る」と政府見解を一転させた。

 「政府が敵になった」。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)には、2022年10月19日の首相答弁について、そう漏らした幹部もいた。

 「あり得ない。岸田は何を考えているんだ」「ここからは戦争だ」。答弁を受けて教団の緊急会議が開かれ、そんな声が飛んだという。

100人以上からヒアリングを

 政府の新たなスタンスは固まった。前例のない、民法不法行為を理由にした解散命令請求を視野に、文科省を含め各省庁が走り出した。

 明確な「勝算」はなかった。猛毒のサリンを作っていたオウム真理教のように、刑事事件の明白で強力な証拠があるわけではない。

 裁判所に請求を認めてもらうには、分厚い証拠を集め、民法不法行為に組織性、悪質性、継続性があったと証明しなければ――。政府は新たな材料集めに着手した。

 解散命令請求に向けた実務を担う文化庁宗務課の定員は8人だったが、警察庁金融庁国税庁からも職員派遣を受けて40人規模に。献金被害を訴える全国各地の人たちのもとに足を運び、民事訴訟になっていない事例も含めて1人ひとりの証言を集めて回った。

 教団が長年にわたり、全国で悪質な献金被害を生んでいたと示すためだ。

 「100人以上からヒアリングを」。政府関係者によると、そうした目安のもと聞き取りが行われた。進捗(しんちょく)状況は政府内のごく少数にしか知らされなかったという。

 被害証言の蓄積を進めつつ、それとは別に、政府は教団自体の調査に着手した。宗教法人法にある「質問権」を22年11月、初めて行使し、組織や財産などについて教団に報告を求めた。

 質問権を使った調査に回答しないと、行政罰の過料(最大10万円)の対象になる。政府内では、教団に過料を科すよう裁判所に求めてから、間髪入れずに解散命令の請求に進む、という二段構えの方針が確認された。「過料を求めてからの方が『教団は不誠実だ』と裁判所に印象づけられると考えた」と関係者の1人は話す。

「宗教弾圧」に寝付けぬ夜

 「23年の、春の終わりごろだったと思う」(関係者)。この頃には「(解散命令を請求する)Xデーは9月」と、政府のごく限られたメンバーに共有された。

 文科省は23年9月、教団に過料を科すよう地裁に通知した。最後の1人まで被害証言の聞き取りが終わるのを待ち、解散命令請求は結局、23年10月13日になった。170人超の証言が積み上がった。

 「汗が出て寝付けない夜が続いた。もし負ければ、30年後の教科書に『ここから宗教弾圧が始まった』と書かれるかも知れない」。政府関係者の1人は当時の重圧をそう振り返る。

 憲法が保障する信教の自由を侵してはならない。それでも「解散命令に相当する証拠が集まったと判断したから請求した」と関係省庁の幹部はいう。別の政府関係者も「請求にあたって官邸の圧力はなかった」と口をそろえる。ただ、「『官邸の主』は請求したいのだろう、という雰囲気はあった」とも語った。

立証に高いハードル

 24年3月26日。前哨戦は政府に軍配が上がった。東京地裁は教団に過料10万円を科す決定を出した。その中で、解散命令の要件の一つとなる「法令違反」に民法不法行為も含まれるとの判断を示した。

 「法律論は決着が着いた」。解散請求に携わってきた政府関係者は自信を深めた。

 本丸の解散命令請求の審理は非公開。東京地裁で行われ、現在は書面のやり取りが続く。今後は政府側が集めた被害証言を巡り証人尋問に移ることも想定される。

 宗教法人法によれば、裁判所が解散命令を出す要件は「法令違反」だけではない。「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」があったとの証拠も必要だ。

 あるベテラン裁判官はこうみる。「単なる『公共の福祉を害する』でもハードルは結構なもの。そこに『著しく』とつけているのだから、立証にかなり高いハードルを課している」

 地裁は、いつ、どんな判断を示すのか。関係者の間では、25年にも判断が出る可能性があるとの見方が出ている。