29日投開票のオーストリア総選挙(国民議会、定数183)で反移民などを掲げる「自由党」が初めて第1党になりました。1950年代に元ナチス党員らが設立した政党で、今も排外主義的な主張をしています。躍進の背景には何があるのでしょうか。ウィーン大のローレンツ・エンザー=イエデナスティク教授(オーストリア政治)に聞きました。
――自由党の支持拡大の背景には何があるのでしょうか。
「まず自由党はドイツの右翼政党『ドイツのための選択肢(AfD)』などの新興右翼と異なり、1999年と2017年の総選挙で議席数を伸ばし、これまでも存在感を示してきました。今回の支持率の高さはオーストリアでは目新しいことではありません」
「自由党が今回、他の政党と差別化を図った主な点は、移民政策、コロナ禍対応、ウクライナ支援、環境政策です。移民政策は、他の欧州の右翼政党と同じく、移民らへの不満を持つ人々の支持を得ました。政府のコロナ禍への対応にも批判的で、ワクチン接種に懐疑的な人々の支持も集めたと思います。また、ウクライナに侵攻するロシアへの制裁に対する否定的な見方もあります。自由党は他の政党に比べてウクライナ支援に消極的で、支援に不満を持つ人、さらに自由党が批判する欧州連合(EU)の環境政策に不満を持つ有権者の受け皿になっているとみられます」
「自由党は移民やコロナ禍、ウクライナなどの問題を通じて、いかに主権や自由を失っているか、いかに文化が変わってきているか、いかにエリートと呼ばれる層が市民の好まない政策を押しつけているかという主張をしたことが、支持拡大の背景にあると思います」
――自由党は1950年代に元ナチス党員らが設立した政党で、今でも自由党の議員らにはナチスのスローガンを掲げる人がいるという報道も見られます。ナチスの反ユダヤ主義的な考えを復活させているのでしょうか。
「ナチスのスローガンを掲げるメンバーはいます。ただ、かつては反ユダヤ主義的な姿勢でしたが、この10年間くらいで立場を大きく変えています。今は反ユダヤ主義の訴えを避け、逆に親イスラエルのようになっています。オーストリアでは、ユダヤ人を標的にするような事件が起きた場合、自由党を含むすべての政党が非難します。今の自由党の反移民政策は、むしろ反イスラムに向かっています。シリアやアフガニスタンなどから来る難民申請者らに矛先を向けているのです」
――自由党主導の政権ができれば、政策はどう変わるのでしょうか。
「難民申請者のオーストリアへの流入を制限するでしょう。難民申請者への医療ケアについては基本的な処置以外は提供しない方針などを示していますので、移民政策が厳しくなるのは間違いありません。さらに(自由党への批判的な報道で)彼らが敵視している公共メディアにも圧力をかける可能性があります。ただ、難民申請者らへの一部の政策は非常に過激なため、今の憲法やEUの法律に触れる可能性があり、彼らがやりたいことを実現できるかどうかは不透明です」
「自由党はロシアに対する制裁に反対しています。ハンガリーのオルバン首相のように、対ロシアの制裁案に拒否権の行使をちらつかせるなどして、EU内の合意はさらに難しくなるでしょう。自由党はプーチン大統領が率いるロシアの与党と協力協定を結んでいました。こうしたロシアとの関係は懸念材料です。ただ、オーストリアは永世中立国を維持し、多くの人々のアイデンティティーになっています。中立性は重要視されているので、主要政党がこれと違う立場をとろうとするのは非常に難しいと思います」
――自由党主導の政権はできるのでしょうか。
「最も重要な役割をするのは(ネハンマー首相が率いる)中道右派の国民党です。国民党だけが唯一、自由党との連立を考えうる政党であると思います。国民党が、自由党と組むのか、それとも(社会民主党などの)左派系やリベラルの政党と組むのかの主導権を握ることになります。国民党は自由党のキクル党首が参加する連立政権は拒否しています」
「国民党は過去にも自由党と政権を組み、いまもオーストリアの州レベルで連立を組んでいるところもあります。しかし、いずれも国民党が主導しています。ですので、国民党にとっては(議席数で下回る)社会民主党や緑の党などと組んだ方が、自分たちが主導できるので得策です」(ウィーン=寺西和男)