選挙で大敗した直後に国際舞台に立つ心境とは、いかなるものか。欧州議会選を終えてＧ７サミットに参加した仏独両首脳の表情を眺めつつ、想像した。Ｇ７では英首相も来月の総選挙で劣勢が予想され、米大統領の再選にも影が差す。低支持率なら日本も負けていない
▼最高の気分で首脳たちを迎えたのは、議長国イタリアのメローニ首相だろう。欧州議会選で自ら率いる右翼政党が大勝し、右派躍進の象徴となった。次々と首相が代わり「回転ドア」と呼ばれたイタリアで、政権基盤を固める
イタリア ジョルジャ・メローニ首相（Giorgia Meloni）
G7 広島サミットに参加するイタリアのメローニ首相の詳しい情報です。年齢は、2023年5月19日時点のものです。
イタリア初の女性首相
イタリアのジョルジャ・メローニ首相は首都ローマ出身の46歳。15歳のときにイタリアの独裁者ムッソリーニが結成した「ファシスト党」を原点とする政党「イタリア社会運動」の青年組織に加わりました。メローニ首相の著書によると、1歳のときに父が失踪し母親と祖父母に育てられたということで、政治に関心を持ったのは母親の影響が大きかったとしています。
また、1992年にイタリアでマフィアへの捜査を指揮していた検事が殺害された事件をきっかけに、世の中を正したいと、政治の世界に入ることを決意したということです。その後29歳で下院議員に初当選し、31歳の時に当時のベルルスコーニ政権で若年対策担当相に起用され、イタリアでは史上最年少での閣僚就任として注目されました。
【右派政党の党首に】
2012年には右派政党「イタリアの同胞」を結党し、2014年に党首に就任。当時のドラギ首相の連立政権に主要政党のなかでは唯一参加せず、野党としての立場を貫いて政権批判を続けました。また、EU＝ヨーロッパ連合の移民や難民への政策を批判し、自国第一主義的な主張を繰り返してきました。こうした中、去年9月のイタリア議会選挙を前に行われた世論調査で「イタリアの同胞」が上下両院で過半数を獲得する勢いを見せたことから党を率いるメローニ首相への関心が高まり、過去の発言にも注目が集まりました。メローニ首相は19歳の時にイタリアの独裁者ムッソリーニを肯定する内容の発言を行っていたため、メローニ首相がファシズムに傾倒しているのではないかという懸念がメディアやほかの政党の幹部から出ました。
しかし、こうした懸念を払拭しようと、メローニ首相は英語、フランス語、スペイン語で動画のメッセージを発信し、「『イタリアの同胞』が選挙で勝つと権威主義的な体制となり、ユーロ圏からの離脱につながるのではないかと報じられているがばかげている」などと主張しました。
【第１党に躍進し首相に】
結果的には議会選挙で「イタリアの同胞」が第一党に躍進し、去年10月22日、メローニ氏は女性としては初めてイタリアの首相に就任しました。ただ発足したメローニ政権は、ウクライナへの軍事侵攻をめぐってロシアへの制裁を強化するEUを批判してきたサルビーニ元内相が率いる政党と、ロシアのプーチン大統領と個人的に親しい関係で知られるベルルスコーニ元首相が率いる政党との連立政権になりました。連立政権内の各党のロシアに対する立場の違いから、発足当初はウクライナへの軍事侵攻に厳しい姿勢をとらずロシアへの制裁でもEUとの足並みが乱れるのではないかという見方が出ました。
しかしメローニ首相は就任の際の所信表明演説で「エネルギーを利用したプーチン大統領の脅迫に屈することは問題の解決にならない」と述べ、ロシアへの対応などでEUと連携していく考えを強調しました。さらにEUについて「私たちの共有の家であり、1国だけで向き合うのが難しい複雑な問題にともに対処するための存在であるべきだ」と述べるなど、EUやNATO＝北大西洋条約機構との関係を重視する立場を鮮明にするなど自国第一主義的な主張を繰り返してきたこれまでの立場を軌道修正する形となりました。
またメローニ首相は、ことし2月にウクライナを初めて訪問してゼレンスキー大統領と会談し、地対空ミサイルシステムの供与など軍事支援を継続する方針も示しました。
私生活では、テレビ局に勤める年下の事実婚のパートナーと6歳の娘がいるほか、ファンタジー小説の著者として知られるイギリスの作家トールキンの作品「指輪物語」を愛読し、地元ローマのサッカーチーム、ASローマのファンだということです。
▼就任した２年前、党がネオファシストの流れをくむことや、発言から「極右」とも称された。予想に反し、外交では親ＥＵ派と歩調を合わせる現実的な戦略に。一方で国政では、人工妊娠中絶や性的少数者の権利などで強硬路線をとる
▼その素顔が見えたと感じたのは共同声明だ。メローニ氏は否定したが、声明案から「安全で合法な中絶」の文言を消したと報じられた。「初参加したローマ教皇への配慮を理由に押し切った」との見方も
▼イタリアでは４６年前に中絶が合法化された。だがメローニ政権は先日、妊娠の相談窓口に反中絶団体を関与させる法案を可決させた。「中絶を諦めるよう説得し、自由な選択を奪うもの」と反発する声も
▼中絶をめぐる議論は、宗教や人権などが絡んで対立が激化しやすい。世界の約半分が投票権を握る「選挙イヤー」に、女性の尊厳や健康を置き去りにした駆け引きで利用されないことを切に願う。
