徒然なる儘に ・・・ ⑤

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(8がけ社会)インタビュー:上 低賃金労働ありき、脱却を 歴史社会学者・小熊英二さん 2024年1月16日 5時00分

 

 日本社会の過去と現在の姿を踏まえ、「8がけ社会」の未来をどう描くか。歴史社会学者の小熊英二さんに聞いた。

 ――労働力不足が問題になっています。

 日本では最近の現象です。敗戦後は人口過剰の方が問題でしたし、1970年代までは地方の農林自営業から労働力が供給されていました。また女性・高齢者・若者が家計補助の縁辺労働力と位置づけられ、各種の低賃金労働を担っていた。

 欧米諸国はすでに20世紀半ばには農村からの労働力供給が期待できず、移民を入れていた。日本は、特定の産業には90年代から技能実習生を入れましたが、全体的な労働力不足が深刻化したのは2010年代以降です。

 ――女性労働力は期待できませんか。

 意外かもしれませんが日本の女性労働参加率はすでに米国やフランスより高い。問題なのは、その過半が低賃金の非正規雇用であることです。正規雇用の場合も女性は低賃金で勤続年数の短い介護・福祉業界が多い。

 ――今後の選択肢は?

 三つ考えられます。

 一つは従来の延長で、移民で地方の農水産業や繊維産業などを支える。そのためには技能実習生のように企業や地域間の移動を制限する必要がある。

 二つめは地方の低賃金産業の維持はあきらめ、移民の地域移動を自由にすることです。都市に移動してもサービス業など低賃金産業に就く可能性が高いですが、地方より賃金が高い。

 ――三つ目の選択は?

 日本国内に低賃金部門を残さないシナリオでしょう。最低賃金を2千円に上げれば、低賃金で維持されている産業は合理化を迫られる。スーパーはセルフレジ、外食は高価なレストランか自動販売機という、欧米の大都市に近い形になる。

 福祉サービスは、私企業が高い料金で運営するか、北欧のように税で地方政府が担うか、介護保険料を上げるしか選択肢はありません。

 ――低価格の商品やサービスに慣れた日本人が許容できるでしょうか。

 これまでの日本は低賃金労働や無賃金労働がいくらでも供給される状態に慣れきっていました。その多くを担ってきたのは、非正規労働や無償のケア労働を供給してきた女性だったわけです。

 そんなやり方は限界です。賃金を上げて価格上昇を許容するか、税か保険料を上げて公的サービスを増やすしかない。

 ――諸外国はどんな選択をしていますか。

 どの国もそれぞれ、賃金を上げる市場化、公務員を増やす公的セクター化、外から労働力を入れる移民国家化という道をミックスしている。

 例えば、米国は市場化も移民受け入れもする一方、21年の有業者に占める公務員比率は15%で、日本の4・6%の3倍にも上ります。スウェーデンは、働く人の29%を女性のケア労働者などの公務員が占めています。

 ――日本の人口減少は数十年前から推計されていました。なぜ今まで、効果的な手を打てなかったのでしょうか。

 日本は深刻な労働力不足に陥ったことがなく、切迫感がなかったのでしょう。若い労働力は地方の農林自営業から供給されてきたし、低賃金労働や無償労働は女性がやるから問題ないと考えてきたからだとも言えます。

 さらに逆説的な言い方をすれば、出生率の低下を人権や平等の問題と考えずに、労働力供給の問題としか考えてこなかったことも一因でしょう。

 どうすれば出生率が上がるかの確定的な学説はありませんが、人間として生まれることに希望がもてる社会の方が出生率は上がるでしょう。

 次世代に低賃金労働の供給源として生まれてほしいと考える社会で、出生率が上がるはずがないと思います。(聞き手・真鍋弘樹奈良部健

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 おぐま・えいじ 歴史社会学者 1962年生まれ。慶応大学教授。2016~19年に本紙の論壇時評を担当。著書に「単一民族神話の起源」「〈日本人〉の境界」「〈民主〉と〈愛国〉」「日本社会のしくみ」など。

 

 ◇高齢化はさらに進むのに現役世代は2割も減る2040年。「8がけ社会」の困難を突破する解決策を識者に聞いた。