徒然なる儘に ・・・ ⑤

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<正論>政策をパリ協定に隷属させるな 東京大学公共政策、大学院特任教授・有馬純 東京大学公共政策、大学院特任教授・有馬純 2024/5/10 08:00

東京大学公共政策、大学院特任教授・有馬純

60%削減吞(の)まされるリスク

政府で第7次エネルギー基本計画の検討が開始される。2024年度中にとりまとめる予定だというが、筆者は非現実的な温室効果ガス削減目標が先に決まり、つじつまを合わせるためにこれまた非現実的なエネルギーミックスが作られることを強く懸念している。

気候変動問題に関する国際会議COP21で採択されたパリ協定は産業革命以降の温度上昇を1・5~2度以内に抑えるという地球全体の目標を掲げている。

昨年12月のCOP28の合意文書には「1・5度目標を達成するためには2019年比で30年に43%削減、35年に60%削減が必要」との数値が盛り込まれた。4月末のG7気候・エネルギー大臣会合(イタリア)ではこの数字が再掲され、35年の次期国別目標を前進させ、50年ネットゼロと整合させることがコミットされた。

19年比60%削減を日本の排出量にあてはめれば、35年目標は13年比65%削減と、わずか5年で現行の30年46%削減から更に20ポイント近くも引き上げられることになる。

第6次エネルギー基本計画は50年ネットゼロ目標から逆算した30年46%削減目標を後付けするためにエネルギーと電力需要を低く見積もり、再エネのシェアを大幅に積み上げる等のつじつま合わせの産物であった。そのためエネルギー効率改善スピードを倍増、審査中のものも含め更に10基を超える原発を再稼働せねばならない。原発再稼働の遅れを見ただけでも目標達成は覚束(おぼつか)ない。その5年後に目標の大幅な積み上げをするなど常識的にはあり得ないだろう。

「国破れ脱炭素あり」は無意味

しかし温暖化防止の世界では「実現可能性は別としてとにかく野心レベルの高い目標を出す」という欧米型のアプローチが支配的だ。菅義偉前首相が表明した50年カーボンニュートラルや30年46%削減目標は、積み上げによって目標を設定するこれまでの堅実なアプローチを欧米の大言壮語型にシフトさせたことを意味する。しかし高い理想と現実は別だ。欧米諸国は目標達成ができなくても恬淡(てんたん)としている。つい最近もスコットランドが30年75%削減目標を放棄したばかりだ。日本も欧米流の理想に学ぶならば、それが実現しない場合の厚顔さも学ぶべきだ。

そもそも世界は1・5度目標になど進んでいない。目標達成のために必要とされる30年43%削減、35年60%削減のためには世界のCO2排出量を23~30年で年率9%、30~35年で年率7・6%の削減を毎年達成する必要がある。世界が新型コロナに席巻された20年ですら対前年比5・5%減であったことを想起すれば実現するはずがない。中国、インド等の新興国・途上国が17項目のSDGsの中で温暖化防止に与える優先順位は先進国よりもはるかに低いのだ。

日本が35年60%削減とのつじつま合わせのために再エネ目標を野放図に上乗せしたり、電力部門に厳しいキャップをかけるような計画を作れば、ただでさえ高い日本のエネルギーコストは更に上昇し製造業や雇用にネガティブな影響を与えるだろう。その結果、温室効果ガスが減ったとしても「国破れて脱炭素あり」では全く意味がない。温暖化対策を続けるためには良好な経済環境が前提条件だ。

日本に重要な臨機応変

1・5度目標は、目指しても決して到達しない北極星のようなものだ。パリ協定の中核は各国の国情に合わせて自主目標を設定するというボトムアップの枠組みである。目標が達成できなかったとしても罰則はないからこそ、米国も中国もインドも参加するグローバルな枠組みになったのだ。1・5度目標を絶対視する環境原理主義が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しているが、これはパリ協定そのものの問題ではなく、各国政府の運用の問題である。

米国でトランプ政権が復活した場合、パリ協定のみならず気候変動枠組み条約からも離脱する可能性が高い。日本もパリ協定から脱退すべきだとの議論があるが、筆者は反対である。トランプ前政権がパリ協定から離脱した際、追随する国は皆無だったし、今回も同様だろう。日本がパリ協定から離脱する外交的コストは非常に大きい。将来、民主党政権が復活したら、再び帰参するのだろうか。

日本がその気になれば、パリ協定の理想自体は共有しつつも、足元では国益を毀損(きそん)しないエネルギー温暖化政策を追求することは可能だ。例えば第7次エネルギー基本計画では結果としての削減数値よりも原発再稼働・新増設やクリーンエネルギー技術の大幅なコスト低下を目標値とし、「これらが実現すれば35年60%も可能」としてはどうか。エネルギーミックスや電源構成に幅を持たせることも一案だ。また脱炭素化を進める途上で家庭、産業のコスト負担見通しを他国と比較し、定期的に国会に報告することとし、必要に応じブレーキをかける等の見直し条項を含めてもよい。可能な限りの自由度を確保すべきだ。

温暖化の世界では表向きの美辞麗句がもてはやされるが、日本に求められるのはしたたかな臨機応変さである。(ありま じゅん)