今年1月、イスラエルの商都テルアビブ。地中海を望む高層ビルに米データ解析企業「パランティア・テクノロジーズ」のアレックス・カープ最高経営責任者(CEO)の姿があった。イスラエルで初めての取締役会に出席するためだ。
カープ氏はイスラエルのヘルツォグ大統領や国防省幹部らと相次いで会談。同席した同社幹部のジョシュ・ハリス氏によれば、防空警報が時折鳴り響く中で交渉し、イスラエル軍と「戦争を支援するための技術を提供する」ことで合意した。
朝日新聞の取材に応じたハリス氏は、昨年10月のイスラム組織ハマスへの報復攻撃で、イスラエル軍を本格支援したと明かした。1月のイスラエル訪問で「我々のシステムが持つ影響力を確認できた」と満足げに語った。
2003年創業の同社は米中央情報局(CIA)とも結びつきが強く、衛星画像のAI解析などで欧米の軍や情報機関と連携。テルアビブの事務所を15年に開設したほか、ウクライナの首都キーウにも事務所を構え、22年のロシア軍侵攻後、ウクライナ軍も同社のAIシステムを戦場で活用している。
同社の担当者がAIシステムのデモを記者に示した。画面にウクライナ東部の地図が映され、「標的」となるロシア軍部隊が青い枠で示される。衛星画像や機密情報、ミサイルの熱を探知する赤外線警戒システムなど膨大なデータから、注目すべき標的をAIが指揮官に提示する。
「例えば、この桟橋を爆撃するとしよう」。別の地図で担当者が赤い三角形の「標的」を選ぶと、AIが攻撃に使える戦闘機のリストを「標的までの時間」「燃料の残量」「搭載武器」などと共に提示した。担当者が重視する項目を選ぶと、最適な順番で戦闘機のアイコンが並んだ。
まるでゲームをしているような感覚だ。
同社幹部のシャノン・クラーク氏は「東アジアなどで想定される未来の戦争は、従来と全く違うものになる」と述べ、「戦闘領域がより大規模になり、瞬時に意思決定が求められる。人間では対応できないことをAIが補完してくれる」と意義を強調する。
兵器単体ではなく、複数の無人機がAIで連携し、オオカミの群れのように「獲物」を狙う「群集ドローン」の開発も主要国で進んでいる。
AIは軍事分野に深く浸透し、AI兵器の誕生は火薬や核兵器に次ぐ、「戦争における第3の革命」とも呼ばれている。
「AI戦争の実験場」とも指摘されるウクライナは、ロシア軍の侵攻後、欧米の支援も受けてAI兵器を戦闘に本格投入し、新興技術の積極活用が大国にあらがう原動力にもなっている。
一方で、AIが常に正解を示す保証はない。パランティアの設計担当者もAIが「幻覚」を起こしうると認めつつ、検証や学習機能で精度を上げる必要性を強調する。
次の戦争を優位に戦おうとの各国の思惑が絡み、AIが「実験場」で収集したデータの学習を重ねる中、戦争の長期化で多数の人命が失われているのも事実だ。
昨年、前線の東部バフムート近郊などでウクライナ軍に従軍し、アフガニスタンなど25年近く戦地を取材してきた戦場カメラマンの横田徹氏は「日中は常に(ロシアの)ドローンが飛来し、位置を把握されると砲弾が飛んでくる。移動中は足元の地雷だけでなく、空も警戒した」と語り、戦場の変化をこう指摘する。
「AIとドローンの登場で、実際に引き金を引かずにモニター上で攻撃できる。人を殺傷する心理的ハードルが下がり、前線はかつてより悲惨さを増している」