徒然なる儘に ・・・ ⑤

心機一転、新たにブログ再開です💕 雑談を書くことも多いですけれど・・・(主に、電子ゲーム・ネタ💕)、残りは【新聞記事】にコメントを入れています💕

(交論)戦争の語られ方 薮中三十二さん、佐藤優さん 2024年2月6日 5時00分

 戦争を始めるのも、やめるのも、カギを握る大きな要素は人間の意思であり、世論の行方だ。約2年前、ロシアがウクライナに侵攻し、日本でもにわかに関心が高まったが、様々な角度から成熟した議論をかわすのは案外難しい。いまの日本の「戦争の語られ方」を聞く。

 ■防衛や外交、批判を許さぬムード 薮中三十二さん(元外務事務次官

 ――ウクライナでの戦争を機に日本でも戦争の語られ方が変わりましたね。

 「私は今、戦争の足音が聞こえてくるような日本のムードを心配しています。平和の重要性を語ると『空想的平和主義』と批判され、『中国に勝てるのか』と言われる。戦争の足音が響き始めると、否定的なことを言うのが難しくなります。戦争って、そういう力を持っています」

 「戦争の話には、お金も付いてきます。『国を守るのは当然だ』と言われ、中身を吟味しにくくなる。岸田文雄首相が防衛費の倍増を決めましたが、まともな説明はありません。岸田さんは『数字ありきではない』と言っていましたが、まさに数字ありきです」

 ――精査もせずに倍増するなど、ほかの予算では考えられませんね。

 「北大西洋条約機構NATO)並みに、ということで国内総生産(GDP)比2%と決め、なんとなく国民も納得したかのようです。しかし、中身をチェックせず決めたのは大問題です。防衛増税となると世論も慎重になりましたが、防衛費倍増となれば大規模な増税が必要です」

 「少子化対策では、財源がすぐに問題となりますが、少子化は日本にとって大きな安全保障上の問題です。私みたいな年寄りばかりで人口が減って、この国を守れますか」

 ――ウクライナの戦争の影響は大きいですね。

 「ウクライナ侵攻が不可避だったかのように言われますが、本当にそうでしょうか。『侵攻を止める方法はなかったのか』ということです。そのための外交が不在ではなかったか」

 「侵攻前、ロシアは米国に『ウクライナNATOに加盟させるな』と要求していました。これに対し米国はゼロ回答でした。ブリンケン米国務長官は『ロシアが誠意をもって話す用意がないので、ロシアと話しても無駄だ』と言うのです。これでは、外交官として失格だと思います」

 ――失格ですか。

 「私が米国の外交官なら『米ロの共通の理解として、当面の間、ウクライナNATOに入ることはないという見通しを共有した』といったようなボールを投げますね。そうした努力をなぜしなかったのか」

 「ロシアの侵攻の3カ月前に米国とウクライナが結んだ『戦略的パートナーシップに関する憲章』で、米国はロシアの侵攻阻止への協力姿勢を打ち出しながら、直前になってバイデン大統領は『米軍は関与しない』と言い切った。この一貫性のなさ。抑止は完全に失敗し、外交不在でした」

 ――米外交の失策だと。

 「米外交を問題視すると『ロシアの味方か』と言われかねないので、誰も言おうとしません。もちろん、100%悪いのはプーチン大統領であり、ウクライナへの侵攻は絶対に認められない。でも侵攻を止められたかどうかは別問題です」

 「ウクライナでの戦線で膠着(こうちゃく)が続けば、停戦に向けた動きが活発化するでしょう。その際、米国の関与が不可欠ですが、今、米外交は中東問題で手いっぱいになっています」

 ――混迷していますね。

 「ガザイスラム組織ハマスイスラエルを急襲すると、ブリンケン氏はすぐにイスラエルに入り、ネタニヤフ政権のガザ攻撃を全面支持すると表明しました。その後、イスラエルの反撃が始まると、米国の若者世代から『イスラエルはやり過ぎだ』という批判を浴び、大統領選を前にして、バイデン政権は苦しい状況に立たされています」

 「米国をはじめ世界の若者たちはSNSでガザの悲惨な映像を見ています。いま起きているのは『SNSのもとでの戦争』です。戦地の映像が直接スマホに入り、世論に影響を与えます。今までの戦争とは違うのです」

 ――日本外交に何を期待しますか。

 「戦後の平和は私たちが卑下するような話ではありません。平和で豊かに暮らすことこそ国益でしょう。それがおかしいと言う人がいるのなら、私はその人の見識を疑います」

 「日米同盟の堅持と一定の防衛力整備は必要です。同時に、東アジアの平和をつくる外交にも汗をかくべきです。それが現実に根ざした安全保障でしょう。中国と堂々と向き合い、中国に対し『ルールを守るべきだ』と平和攻勢をかけ、東アジアの平和維持に全力を尽くす。そのチャンスが現実にあります。それをモノにする、それが私の期待する外交です」

 (聞き手・小村田義之)

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 やぶなかみとじ 1948年生まれ。北朝鮮核問題の6者協議首席代表などを歴任し、大阪大学特任教授。私塾「薮中塾グローバル寺子屋」主宰。近日中に「現実主義の避戦論」を発刊予定。

 

 ■言いにくかった停戦、現実とズレ 佐藤優さん(作家)

 ――開戦から2年。祖国を守るウクライナに対する支援の機運が最近は変わってきたように感じます。

 「世論や西側の対応は現実的になってきました。『ウクライナの必勝を確信する』と頑張っていた軍事専門家と称する人たちも、ウクライナの苦戦で、どのラインで戦争を終わらせるべきなのか苦慮している。でも私に言わせると当初から明白な話じゃないかと」

 ――この間、即時停戦を言いにくい雰囲気を感じていましたか。

 「言いにくいのは確かでした。でも早くやめないと、ウクライナ黒海に面した領域が全部ロシアにとられる可能性がある。米国の軍事支援が先細り、ウクライナは完全に弾切れを起こしています」

 「今秋の米大統領選トランプ前大統領が当選するような事態になれば、完全にはしごを外された形になる。ロシアは手加減しないでしょう。だから早く停戦に持っていかないと」

 ――それは可能ですか。

 「変化が起きるとしたらウクライナの中からでしょう。ゼレンスキー政権である限り無理です。彼は4州だけでなくクリミアまでの解放を勝敗ラインにした。それを達成できないと敗北を認めたことになります」

 ――日本の報道や世論をどう見ますか。

 「日本人は、この戦争についての報道を見て語る中で、熱気に包まれてしまった。でも、しょせん他人事だったのだと思います。戦争のリアリティーが欠如していた。ただ、ここから学ばなければならないのは、戦争での憎しみというものが我々にも感染してしまうと、我々の目も曇って、戦争をする心に同化してしまいやすいことです」

 ――ウクライナは勝たなければならないとの意識が現実との乖離(かいり)を生んだと。

 「そう思います。今は少し冷静になってきた。ウクライナが目標を達成できないことは相当の人がわかってきている。ならば一刻も早くこの戦争をやめるところに行くべきですが、そこはなかなかメディアが踏み込まない。今まで、さんざんあおってきたからです」

 ――そもそも、この戦争をどう見ますか。

 「これは2期に分かれると思います。境目は2022年9月30日にロシアがウクライナ東部ドネツク州など4州の併合を宣言したこと。それまでロシア側は、ウクライナ東部に住むロシア系住民の処遇をめぐる地域紛争との主張でした。他方、西側連合の考え方は民主主義対独裁。その意味で非対称な戦争でした」

 「ところが4州併合によってロシアの目標があいまいになってしまった。と同時に双方が価値観戦争にしてしまった。終わりなき戦いです、価値観戦争は」

 「一方で、プーチン大統領は勝敗ラインを明確にしなくなった。実効支配の領域が開戦時より少しでも多ければ、当初目的は達成できたという形でいつでも停戦できるということです。率直に言ってこれは予測していませんでした」

 ――戦争が長期化した背景をどう見ますか。

 「ロシアの行為は国際法違反で、厳しく非難されるべきです。ただ、ロシアが侵攻を決めたのは、米国の影響力低下で国際秩序が変動しているという要素もあったと思います。米国が直接的に軍事行動を取ると宣言していれば、ロシアは侵攻しなかったと思います」

 「長期化の背景には、力を付けて言うことを聞かなくなったプーチン政権に対する米国の強いいらだちがあります。核戦争に発展しないよう戦争を管理しつつ、ウクライナへの軍事支援によってロシアを弱体化するのが米国の戦略的目的になっています」

 「ウクライナの人々のためにもならない戦争です。もし自由と民主主義がそれだけ大切だったら、それは戦争を自分たちでやらないと。自分たちの価値観のために『お前たち戦え』と言って兵器だけ出すのは、モラル的におかしい」

 ――日本の立ち位置は。

 「昨年9月の国連演説で外交政策を大きく転換しています。『イデオロギーや価値観で国際社会が分断されていては課題に対応できません』と岸田文雄首相は明言した。世論よりむしろ政府の方が冷静です」

 「日本外交には大きなカードがあります。日本はこれまで殺傷能力のない装備品しか供与しておらず、日本が提供したお金でロシア人は一人も殺されていない。ロシアとウクライナの和平交渉の段階に入れば、仲介国として機能する重要な要素になると思います」

 (聞き手 編集委員・副島英樹)

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 さとうまさる 1960年生まれ。元外務省主任分析官。同志社大学客員教授ソ連・ロシアとの外交の最前線で活躍した。「自壊する帝国」「プーチンの野望」「十五の夏」など著書多数