2018年6月、シンガポールで当時のトランプ米大統領と初めて会談した際の北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の顔は緊張でこわばり、歩みはぎこちなかった。それから6年がたち、今度はプーチン露大統領を平壌に迎えた金氏は終始リラックスした表情で、余裕すらうかがえた。
▼北は17年9月に6回目の核実験を実施し、米西海岸まで届く大陸間弾道弾(ICBM)搭載用の水爆実験に「完全に成功した」と発表した。同月に訪米し、トランプ氏と会談した安倍晋三首相は帰国後、抄子に情勢の緊迫を告げた。「金氏はすごく臆病だから自分からは絶対先制攻撃しない。一方で米国が来年、先制攻撃する可能性が出ている」
▼実際、米国は当時、金氏個人を狙った「斬首作戦」から広範囲を攻撃する核兵器使用まであらゆる選択肢を検討していた。自衛隊幹部も朝鮮半島有事では「拉致被害者救出のため自衛隊を出したい」と漏らしていた。金氏が米朝首脳会談に臨んだのは、このままでは自身の命が危ういと考えたからだろう。
▼今回、金氏とプーチン氏が署名した「包括的戦略パートナーシップ条約」には、互いの有事に「軍事援助を提供する」との文言がある。朝鮮半島有事に、ロシアが軍事介入する道を開いたもので、米国の軍事的圧力におびえてきた金氏がほくそ笑む姿が目に浮かぶようである。
▼核大国を目指し着々と歩を進めてきた北が、ロシアという老舗の核大国と手を握ったとあっては、米国もうかつには手出しできない。中国の脅威も合わせ、わが国を取り巻く安全保障環境はかつてなく厳しい。
▼にもかかわらず、21日に事実上閉会した通常国会は「政治とカネ」に明け暮れた。平和ボケは病膏肓(やまいこうこう)に入っている。