米大統領選のテレビ討論は、じつに恐ろしい。１９６０年。副大統領だったニクソン氏が、年下のケネディ氏を前に汗をぬぐう。その様子がカメラに映され、イメージ戦略で敗れたのは有名だ。２７日の討論会も、そうしたケースの一つとして語られることになるのだろうか
▼共和党のトランプ氏は、自分の政権がいかにすばらしかったかと大言を繰り返した。相変わらずの光景である。そして現職のバイデン氏を指して「この人がやっていることは犯罪的です」。どの口が言うのか、というセリフを熱量たっぷりに語った
▼想定外だったのはバイデン陣営だろう。「（トランプ氏の発言は）一言一言すべてがウソです」。口を半開きにしてあきれてみせる。討論会の前にスタッフとこもったという山荘で、顔のつくり方まで練習していてもおかしくはない
▼しかし、固まった表情から伝わってきたのは老いだった。８１歳。討論を終えて壇上を去る。一歩一歩危うげに段差を降りる姿をカメラが遠目にとらえていた
▼年齢に不安を抱えていることは何度も指摘されてきた。だから米国の有権者も織り込み済みかと見ていたが、どうやら評判は散々らしい。ニクソン氏と同じ、いやそれを超える失速かもしれない。民主党内では、候補者の交代論さえあがっているという
▼討論会で「史上最悪の大統領」と互いにののしりあった２人のどちらに、米国民は最後の軍配をあげるのか。顔ぶれにもう一波乱あるのかどうか。気をもみながら見守る。
